第九話:光放つ失望
「……っ」
肩をふるわせて、梨由は息を呑んだ。
あたまのなかがぐるぐるしてちっとも上手く物事を考えられない、それでも、渦巻く思考の中心には腰を据えた兄が立っている。
本来なら全力で抗うべきだとわかっていても、手招きをする愛欲には抗えない。
孤独は引力となる、孤独を感じるほどにふたりは強く寄り添いたくなる。
同時に、互いの体温も皮肉な引力となる、寄り添うほどにふたりは孤独を引きつけ身に纏ってゆく。
運命より遥かに手強いものが、孤独だった。
そもそも、生まれたときにはすでに妹と定められていた梨由にとって、“運命”ほど残酷な言葉はこの世に存在しない。
めぐりあわされたわけではない、最初から兄だった。
終わることのないそれはただ、惹かれあうだけのおいかけっこなのだ。
「い…っ、……挿れて?お兄ちゃんっ……」
濡れた視線を逸らし、梨由は消え入りそうな声で懇願した。
罪悪感にぞくぞくして、中がしきりにうねっている。
「どうせならこっち見ながら言って欲しかったな」
くすくすと笑った武瑠は妹の耳にくちづけると、躰を起こした。
梨由は思わずぶるりとふるえてしまい、頬を高揚させる。
「気が利かねぇ妹を持つと大変だ」
兄はきちんと用意していた避妊具を取り出す。
とたんに心はさざめき、張りつめた。
取り出されたのは、ちゃんとするための避妊具ではなくいたって軽い気持ちでするための避妊具だと、そう思えてならなかった。
「……やっぱいい……お兄ちゃんの意地悪……」
目を逸らしたまま、梨由は呟いた。
わざとらしい物言いにも胸が苦しくなっていた、言いたくない言葉たちはなぜか止まらない。
「実の妹としたって……ほんとは気持ちよくなんかないでしょ…?もう、……帰っていいよ……」
戸惑いつつ本心とは裏腹の気持ちを口にした梨由は、兄の肩を押し退けようとした。
部屋は煌々と明るいのに、目の前は真っ暗だ。
「…――――俺はずっとこの手を振り解きたかったんだよな……」
伸ばされた手を掴んだ武瑠は、自ら腕へと当てさせた。
先ほどとは違う優しい言い方が、すごく、こわかった。
「でも……できなかった」
腕に当てさせた手に手を重ねて、じわじわと兄は力を込める。
彼は俯き加減でいる妹のことしか見ていない。
おそらく、武瑠はやっとのところでなけなしの自制心を働かせていた。
それが余計に、秘めた狂熱を膨張させていた。
真新しい避妊具の袋は無造作に傍らへと投げられる。
「勝手な事を言うんじゃねえ、約束を放棄したのはおまえだろ?」
いきなり腕から手を引き剥がし、武瑠は梨由の躰を無理矢理うつ伏せにさせた。
微かな声を上げることすら許されなかった瞬間、妹は悦びに支配されていた。
「意地悪くらいさせろよ、愛してんだから」
か弱い腰を抱き寄せて、兄は一気に挿入した。
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