第九話:光放つ失望
官能を突き刺すよう迫りくる快感に、涙が誘い出された。
頬を伝い落ちた涙はくちびるを濡らし、乱れる吐息と混ざる。
「あっ…も…っ、やめて…っ、……お兄ちゃっ……んっ」
躰を細やかにふるわせながら、梨由は小さな声で振り絞った。
譫言みたいに弱々しく口にされた懇願を、淫音が勝る。
「ん?何か言った?」
聞こえない振りをしているのか、本当に聞こえていなかったのかは、余裕綽々でいる兄の声色ですぐにわかった、消え入りそうな妹の声でも彼は聞き逃したりはしなかった。
面白そうな笑みも零す武瑠は、ゆびの動きに躊躇を見せない。
「っっん…っ!」
懸命に枕を噛んで、梨由は達する。
「ダメだろ、梨由……枕を噛むなんてはしたないぞ」
すかさず顎を掴み、武瑠は枕からくちびるを無理やり引き剥がす。
手つきに反して優しい言い方は、あくまで妹をたしなめているようだった。
愛液を滴らせる“そんなところ”に、ゆびを入れて掻き乱しているくせに。
「は…っ、っん…っあっ」
梨由は潤んだ瞳で兄を睨みつけようとしたが、できなかった。
焦点は定まっていて、彼だけを見ている、けれど視界はひどくぼやけている。
グリュッッ…!
武瑠は中でゆびの角度を変えて、擦りながら押し拡げた。
「いっ…やあっ!あ…っっ」
顎を掴まれたまま、梨由はきつく目をつむる。
腰がガクガクして、目眩が押し寄せる。
「へえ、これ嫌なんだ?反応はあからさまに気持ちよさそうだけど」
くすくすと笑った武瑠は音を立てつつまた角度を変えて妹の膣を擦った、その動きはどこまでもなめらかだった。
「や…っ!やだっ、やだよ…っ、お兄ちゃ…っ、やめっ…てぇ…っ!」
無我夢中になって梨由は甘ったるい声を上げる、危ないことだとわかっていても、なりふり構っていられない。
沸き上がる背徳感に興奮してしまう、自分はなんて穢れた生き物なのだろう。
…――どうして、実の兄だったのだろうか。
どうして、よりによって、好きになってはいけないひとを、こんなにも好きになってしまったのだろうか。
どうして、何度言葉にしても足りない「好き」という言葉は、何度も何度も喉元に辿り着くまえに息を引き取らなければならないのだろうか。
どうして、ふたりの間にある血の繋がりは、決して絶つことができないのだろうか。
幾度となく、どうして、どうして……と答えのない自問自答を繰り返してきた。
誰も認めてはくれない、ただ、実の兄を好きになってしまっただけのことを、実の妹を好きになってしまっただけのことを、現では誰も認めてくれない。
それが当たり前だという絶望より深い情感に打ちひしがれ、ふたりは確かな孤独のなか愛しあうことしかできない。
「ちゃんと言えたな?必死すぎて笑えた」
顎から無造作に手を放していった武瑠は素早くゆびも抜くと、一気に力の抜けた妹を支えようとはしなかった。
どさりと横たわった梨由は、息を荒らげている。
「で?お兄ちゃんにお願いしたいのはそれだけか?」
シーツに片手を突いてかがむと、妖しい視線を落とし武瑠は問いつめた、一息つく間もまともに与えることなく。
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