第八話:虚無と楽園
濡れた暗闇に包まれ梨由がぐったりしていると、ベルトが外される音や微かにビニールの破かれる音が聞こえた。
乱れた息をごくりと呑み込む、見えてはいなくとも耳で感じてしまえば、その淫らしい様をありありと思い浮かべることができた。
「昨日はおまえに苦しい思いさせたよな、ごめん……これからはちゃんと避妊する」
脚をゆっくりと撫で上げた武瑠は、妹の入り口へ当てがった。
突然、怖いくらい優しい声で告げられた梨由はつまさきまでふるわせた、生憎戸惑いを覚えられる余裕は残されていない。
「恋人同士なら、当たり前のことだ……」
そして、武瑠はわざとらしく“恋人同士”を囁いて、ゆびで乱していた中へとスムーズに挿入してきた。
「……っっ、あっっ」
至上の快感にいきなり奥を突かれて、梨由は躰を反らす。
越えてはいけない一線をどれだけの数越えても、ふたりは決して恋人同士にはなれない。
だって、正真正銘に、血の繋がった兄と妹なのだから。
狂おしく愛しあう気持ちで断ち切れる関係ではない、常に付きまとうのは何よりも濃い血筋だった。
感じても感じても、不毛な行為だと知りながら、兄の言葉に魅せられる。
ほんとうの恋人同士になれたかのような幸福感は一時のものに過ぎない、知らぬ間に奈落の底へ突き落とされている。
けれど、確かに幸せだった。
ふたりはどこまでも高く昇り詰めていくようで、どこまでも深く溺れ沈んでゆく。
ズッ…ズプッ――――…
「は…っあっ、んんっあっ…あっんっ」
梨由は喘いだ、よく濡れている部位と猛々しい兄を繋ぐ場所から響く淫音が容赦なく聴覚を刺激した。
抱き寄せられた肩にゆびが食い込み、熱を帯びて肌を這う。
「もう過去も未来も見えねぇけど、おまえだけは綺麗だな、梨由……」
腰を振り、首筋にキスをして、武瑠は痕をつけた柔肌を吐息でなぞった。
「俺だけに汚されてく……おまえは最高に綺麗だ」
武瑠は勢いよく、妹の最奥を突き上げる。
「あっっ!」
電流が走り抜けたみたいに痺れ上がり、梨由は絶頂を得た。
中は狭まり、兄の鼓動は増す一方だ。
武瑠は目隠しの結び目をきつく掴むと、動きを速めた。
結び目を掴まれた目隠しは解いてもらえるのかとも期待したが、妹の視界を奪ったままでいた。
「舌伸ばせよ、キスしてやるから」
髪にゆびを絡めてくちびるにくちびるを寄せた彼は、あたたかく命じる。
「あ…っあっ、はっあっ…あっ」
本能が逆らえなくて、梨由は無我夢中で舌を伸ばした。
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