第八話:虚無と楽園
全力を尽くしても引き返すことができなくなった、例えお遊びだとしても、越えるべきではなかった線を自ら越えてしまったから。
達してしまった梨由は真っ暗な眩暈に落ちて、全身のちからが抜け、哀しいくらいの不毛な安堵に充たされていた。
「もっと呼んで、ほら」
ふるえるくちびるをあたたかい吐息でなぞり、武瑠は妹の激情を引き寄せる。
「んっあ…っあっ、あ…っ、……おにい…っちゃ…っ」
中で再びゆびの動きを速められて、梨由は上擦った声を振り絞る。
もっと呼んでと求められたら、恥ずかしくて嬉しくて堪らなくなる、もう一度名前を呼ぶのがひどく難しくなる、その気持ちがすでにふたりを兄と妹という関係から解き放ってしまっていた。
男と女としての羞恥が、蕩けそうな蜜となり何度も掻き出されてゆく。
「おまえのお兄ちゃんはもう、いなくなったよ」
ゆびでGスポットを執拗に擦り上げて、頬にくちびるを滑らせていった武瑠は耳もとで吹き掛ける。
「ここにいるのは……梨由がこの世でただ一人、愛している男だけ」
耳にキスをされて、甘く囁かれ、梨由は背筋をより一層痺れ上がらせた。
彼の言い方があまりにもいやらしく、心を支配して蝕み離そうとしない。
兄妹として築き上げてきた思い出たちが、手の届かないところへ遠ざかる。
あり得ないはずの、恋人同士としての幸せな未来が、一筋の光で目眩ましを掛けて残酷に手招きをしている。
そちらに行ってはいけないよ、と、引き留めてくれる理性は互いに本能のなかへと葬り去ってしまっている。
「ずっと昔から、おまえは俺だけを愛してた……俺はおまえだけを愛してた、これから先もそれは決して、変わらない……」
武瑠は目隠しをさせた真実で、妹の本心を容赦なく誘い出す。
「は…っ、あっあ…っんっ、あ…ああっっ」
ヴァギナと同時にクリトリスもゆびでこね回されて、止まらない快感に梨由は腰を跳ねさせた。
耳を舐め回される、エロティックな音も聴覚を愛撫する。
わざとらしく卑猥な音を立てて這う舌の動きにも、陶酔する。
ビクンッ――――…！
「あっ…あっ、たけ…る…っ、んっあ…っ、……たける…っ」
もうすぐでまたイけてしまいそうな梨由は、無我夢中で兄の名前を呼んだ。
兄の名前とは意識せず、ただ、最愛のひとの名前として。
溢れる涙が目隠しをじわじわと湿らせる。
「いいな……思っていた以上に興奮する」
くすっと笑った武瑠はゆびの抜き差しを深く激しくさせて、淫音は高く部屋へと響いた。
耳たぶを吸って放され、首筋にも幾度となくキスをされる。
「あ…っあっっ！」
打ち付けっ放しの快楽に梨由はまたしても果てて、勢いよく噴いた潮と一緒にゆびも素早く抜かれていった。
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