第五話:焼き付く咎
恐る恐る舌が這うと、武瑠の自身はまた気持ちよさげにふるえた。
手のひらへもふるえは伝わりくる。
熱くなって充血して、先端から濡れて、まるで鼓動はそこにもあるみたいだった。
ともすれば、梨由は兄の心臓を掴んでいることになる。
強く掴んで握りつぶしたら、兄はどうなってしまうのだろう。
永遠に自分だけのものになるか、はたまた永遠に誰のものでもなくなるか。
それでも、梨由が兄を支配しているような感覚は、微塵もそこには存在していなかった。
強まるばかりは、自分は大好きな兄に支配されているのだという快感だった。
支配されていなければ、臆病な自分が、兄に関しては特に臆病でいた自分が、こんな大胆なことできるはずがない。
「梨由の舌の動きだけで、お兄ちゃんもうイっちゃいそう」
扇情的な息を吐き、武瑠はそっと、妹のあたまを撫でる。
「ずっと……舐めてほしいって思ってたから」
ゆびが髪へと絡められ、ゆっくりと梳かれ、揺れて落ちれば汗ばむ肌へと張り付く。
「あ……」
女遊びが激しかった兄が、堪えきれないように漏らした息や言葉に梨由はひどく興奮した。
舌づかいはだんだんと恐れを忘れ、ヌルヌルと這って自分の意志では止められなくなる。
「咥えてくれる?」
だからこそ、兄からの誘惑が妹には必要だった。
「うん……」
熱を帯びた視線を落とし、導かれるままに、梨由はふるえてしまうくちびるを、思い切って開く。
それでもまだ、足りないくらいだ。
「もっと大きく開けないと、入んないよ?」
武瑠は汗で艶めく妹の肌へとゆびを滑らせ、顎を持ってくちびるを撫でながら下へと引かせた。
「はぁっ……」
梨由は我慢がならず、うっとりと吐息でも触れてしまった後、
兄を口に含んだ。
「は……」
武瑠の零した吐息が、聴覚を撫でて浸透し、理性を奪う。
梨由はくちびるを滑らせ、深く咥え込んでゆきながら目眩すら感じている。
薄暗い部屋のなかで、何よりも目映い感触だった。
境界線というものは、じつに、脆い。
脆いと気づく前は最も逆らい難いはずのものだった。
一歩足を踏み越えてしまえば、堕ちてゆくことは確実だ。
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