第四話:堕落の喝采
不意に兄のゆびは、ばらばらに動きながら中のざらつきを擦り始めた。
薄暗がりのなか跳ねた妹の躰を、汗や蜜が艶かしく浮かび上がらせる。
「……っあ、う…っ、お兄ちゃあ…っ」
泣いて、伝う涙へは舌が這い、頭の中を真っ白状態にされた梨由は躰を反らした。
中はどこもかしこも兄に乱されてゆくようで、幸せだけれど痛々しい刺激を何度も貪る。
「ちょっと声……大きいかな」
より深くへと、音を立ててゆびを押し入れながら、武瑠はくちびるで妹の口を塞いだ。
「ん…っく、う…んっ」
いきなり舌を入れられ、躰はまるで痙攣したかのようにふるえ、弄られる乳房へはゆびが食い込み梨由は死に物狂いで快感を手繰り寄せる。
激情に包まれながらも暗澹とした、何度掴んでも手のひらを零れ落ちてしまうような、何よりも愛おしくて不確かな快感を。
如何わしい音と共にかき出される愛液は、臀部をびっしょりと濡らし尚も、乱れたシーツへと染みを広げていた。
ゆっくりと舌を吸われ、離されていったくちびるを繋げる唾液が煌めきを帯びる。
「音はどうにもなんねぇけど…声は、我慢してろよ?」
「あ…っ、ん……」
囁きのあとにはまたくちづけが落とされ、梨由は今にも達してしまいそうだった。
中は切なげに、兄のゆびを吸い寄せた。
思い詰めたような梨由の様子が心配で、何度か電話をかけたが繋がらず、ちゃんとアパートへと帰ることができたのか確認に訪れた鉄太は、黙って玄関のドアの外に立ち尽くした。
これは悪夢だと、思いたいが、悪夢だとしたら自分は彼女にとんでもない疑いを持っていたことになるのでは――――…
ひとりで借りた、ふたりで観る予定だったDVDが二本入った袋を手に、なるべく物音を立てないように、息すらも潜めるように、鉄太はふらりと階段へ向かい始めた。
あんな声を出して、相手を「お兄ちゃん」と呼びながら行為に及んでいれば、隣人にはきっと全て筒抜けだろう。
まだ帰宅していなければいいのだが……と、去り際そんなことを考えてしまった鉄太の頬を、夜風が撫でていった。
慰めているのか、嘲笑っているのか、どちらともとれるような生暖かさで。
[ 42/96 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧へ戻る]
[しおりを挟む]
戻る