第四話:堕落の喝采







 帰り道、少し遠回りをして、梨由は鉄太とDVDレンタル店に足を運んでいた。
 鑑賞は一緒に、鉄太のアパートにてするつもりだ。
 新作コーナーに並んだ数ある作品のなかから、用意されている本数が比較的少ない、目当てのDVDを梨由は手に取る。

 「あって良かったね」
 そして笑いながら、鉄太を見た。
 「他に観たいのとか、ある?」
 鉄太は微笑みを返す。


 「ついでだから、これも借りてこうかな」
 梨由は内容が少し気になっていた、他の新作も手に取ってみた。
 こちらは、たくさんの本数が用意されていたが、ほとんどがすでにレンタル中となっている。
 「あ、俺もじつはこれ、気になってたんだ」
 隣で鉄太は、パッケージを手に取りあらすじを眺めた。
 カップルで訪れている客も多く、店内は賑やかで、今売れているアイドルソングが軽やかにCD売り場から響いてくる。


 そのなかで、突然、梨由の携帯電話が鳴り出したのだ。

 「ちょっとごめんね?」
 「うん」
 2本のレンタルDVDを彼氏に預け、隣で鞄から携帯電話を取り出した梨由の手は、

 瞬時に凍りついた。

 否、熱くなったのかもしれない、それすらもよくわからない。



 梨由は黙って、携帯電話を鞄に戻す。
 「出なくていいの?」
 突然黙ってしまった彼女に、鉄太がやさしく尋ねてくる。
 「う、うん……たいした用事じゃ、ないと思うから……」
 どこを見ているのか掴めないような表情で、笑って、梨由はそう答えた。

 「そっか」
 鉄太はそれ以上は何も聞かず、静かにDVDのパッケージを棚へと戻した。
 ちょうどそのときぷつりと、電話の着信音は途切れたのだった。



 …――登録した、覚えがない。
 聞くのがこわくて、気が引けて、結局は聞かず終いでいた。

 なのに電話の相手は、兄からだった。



 鞄を掴む手に、じっとりと汗が滲んだ。
 軽やかだった音楽は、いつしかしっとりとしたバラードソングに変わっている。

 「この2本でいい?」
 鉄太が問いかけてくるけれど、梨由のあたまには何もかもが入ってきやしない。

 兄は電話で何を、妹に伝えたかったのか。
 気になって、仕方がなくて、足元がぐらついた。

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