第二話:密めく熱帯夜







 湿った吐息が響く、蒸し暑い部屋の中。
 「ん…っ、ん…」
 梨由の思考は、完全麻痺状態。
 「指、抜こっか」
 さんざん丁寧にほぐしてから、武瑠はゆびを抜いていった。

 プチュリという音がして、もう限界だったのかもっとしてほしかったのかすらもわからなくなる。
 「はぁっ…」
 ぐったりと、汗だくの梨由は布団へ横たわった。

 「見える?これ全部、梨由の蜜」
 抜いたゆびへ、武瑠は舌を這わせ。
 「ゃ…だ、…そんなっ、きたな…っ」
 梨由は濡れたくちびるを震わせる。


 「ん?汚くなんかねぇよ」
 武瑠はそっと、妹のあたまを撫でると、
 「次はちゃんとイかせてやるからな…?」
 囁いた。

 そういえばイっていないということに気づいた梨由は、行為についてもよくよく思い出せた。
 頬がおかしいくらいに火照りだす。
 最中の兄の言葉遣いは、まるで子供の頃に戻ったみたいだった。
 あやすような、穏やかな声。

 「それじゃあ、おやすみ」
 頬にキスをしてから武瑠は立ち上がり、素早くスーツを整えた。
 女たちと手を切るために纏った正装は、妹のために乱れたのだ。
 その背中を、見つめながら、
 「お兄ちゃん…」
 梨由は小さく声を掛けた。
 「合鍵…、持ってく…?」
 と。

 すると武瑠は、振り向いて、
 「梨由はほんと、肝心なとこが甘いな」
 スーツのポケットからひとつ、鍵を取り出し、揺らしながら言いました。
 「合鍵ならとっくに、作らせてある」


 …――そうだ、だから兄は容易く、
 あたしの部屋へ女を連れ込むことができたんだ――…

 こわい、と感じた。
 兄を、そんな兄をまだまだ好きになってゆく自分を。

 「俺って意外と、おまえに執着してんの」
 そして微笑んだ武瑠は、部屋を後にした。

 「逃げられると思ったら大間違いだよ」

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