第二話:密めく熱帯夜







 ちゅっ…

 再び、重なりあうくちびる。

 「ん……」
 梨由の頭はぼおっとして、何が何だかもうわからなくなってきて、

 クチュクチュッ…

 武瑠のゆびは、ずっとその厭らしい音を聞かせている。

 「ふ…っ、……ん」
 涙は止め処なく流れ、伝う汗によって髪も服も肌へと張り付いて、舌と舌はねっとりと唾液を絡めて動く。


 「はぁ…っ」
 吐息を混ぜながらくちびるを離してゆくと、落とす視線と浮かべる視線が宙で交じり、
 「指入れてみたら、もっとあったかいかな」
 笑った武瑠は入り口を、ヌルヌルとゆびで拡げる。
 「……っふ、ぁ」
 梨由は泣きながら苦しげに、兄を精一杯見上げている。

 ヌプ…

 とうとうゆびは少しだけ、中へと滑り込まされたのだが、

 「怖がんなくて大丈夫、お兄ちゃん、処女とヤったこと何度もあるから…」

 武瑠の囁きが、堕ちゆく理性を呼び戻した。



 「やめてっ、お兄ちゃん!」
 必死で兄を引き剥がそうと、梨由はもがく。
 「もしかして、妬いちゃった?」
 嬉しそうに武瑠は、妹のあたまを撫で、
 「わかりやすいなぁ、梨由は」
 微笑んだ。



 ……どうして、あたしはこんな兄を、ずっと、好きなんだろう…
 ……どうして、あたしはこんな兄を、どうやっても、嫌いにはなれないんだろう…



 感じる体温が、匂いが指が吐息が、全てが悲しみに満ちた悦びを与え乱れた息は止まりそうで。
 わざと言ったのだということは、嫌と言うほどわかっていた。
 昔から、兄はそういう男だ。

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