第九話:光放つ失望







 いきなり最奥へと突き立てられ、梨由は躰を反らした。

 「え…っ!?あ…あっ」
 驚きと共にこの上ない愉悦が襲い来て、何がなんだかよくわからなくなる。
 それでも、何よりも強く兄のことだけは感じている。
 「梨由とするのが一番気持ちいいよ」
 腰を動かしながら武瑠はかがみ、耳もとで甘く囁いた。
 ふっと肌に掛けられた吐息の艶めきに、背筋がぞくぞくする。

 「実の妹とするのが一番気持ちいい」
 なんともわざとらしい囁きだった。
 恋人同士でセックスをしているのだという気分に浸り溺れたくても、できない、兄の言葉が逃れられない背徳を連れて来る。

 ふたりは、ふたりの世界では誰よりも深く愛しあっているのに、愛しあっているから触れあっているわけではない。
 ただ、お遊びをしているだけだ、子供の頃には知らなかったお遊び――それは『背徳ごっこ』。
 大人になるにつれて知ってしまった、皮肉で残酷なお遊び。



 「あっっ!」
 梨由は早くも絶頂を得て、全身を痙攣させている間に片脚を高く持ち上げられ中で少し角度を変えられた。
 収縮に抗い捩じ込むみたいに、兄は何度でも突き上げる。

 ズッ…ズプッ――――…!

 「や…っ、やだ…っ!お兄ちゃ…っ、もっ…やめ…っ、あっ…ああっ」
 激しいピストンによりゆさゆさと乳房を揺らす梨由は、上擦った声で訴えた。
 もしかしたら今この瞬間にもまた隣人に聞かれているかもしれないと、気を回すことはもはや不可能だった。
 余裕など根こそぎ奪われ、どこもかしこも快楽が麻痺させている。
 本来なら、実の兄とこんなふうに繋がることが、最上の不純だった。

 想いがいくら純粋でも、それは兄の耳にしか届かない、他の誰にも決して受け入れてはもらえない。
 行為はこの世の不純そのものだった。


 「またイキそうなくせに……やめていいのか?」
 執拗に奥を擦り、武瑠は不敵な笑みを浮かべる。
 「あっ…っあっ、そこ…っ」
 ぎゅっと握った両手を目に当てた梨由はすぐさま掴んで引き剥がされた。
 両手は押さえつけられ、動きを速めた武瑠は耳に優しくキスをする。

 時折見せる可愛がり方が、兄妹のそれとはとてもではないが思えなかった、恋人同士のように錯覚させるやり方だった。
 言葉とは矛盾しているからこそ、惹かれてしまう。
 これ以上好きになってもどうしようもないひとを、好きになるばかりだ。

 どうしようもない愛と、どうしようもないお遊び、どうしようもない交わりや温もり……。
 どうしようもないものたちばかりに彩られている。



 「あ…っっ!」
 再び絶頂を得た梨由の手首に、武瑠のゆびはそっと食い込んだ。

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