※※第85話:Make Love(+Intercourse).32






 「…あいつって誰だよ、」
 立ち止まり、薔は少しだけ、振り向く。


 それは、思いも寄らない返事だった。

 「竜紀だよ、あの異常男。」








 「―――――――――…」

 薔は、黙り込む。


 「死んだはずだよな、あいつは。じゃあなんでおれは、あの男をニューヨークで見かけたんだろ?」
 彦一は沈痛な面持ちで、つづける。

 「バイトなんて、する必要ないだろ?学校以外はなるべく外を出歩くな。あいつが、またどこでお前を狙ってるか、わかったもんじゃな」
 「なぁ、」

 力強い声で、必死に諭す彦一の声を遮り、薔は返した。

 「あいつは11年前、死んだんだよ。ただの見間違いだ。」






 「そう…だと、いいな、」
 「わざわざこんなとこまで、悪かったな、」
 再び薔は、彦一へ背中を向け、歩きだす。

 その背中へ、

 「お前、もうすぐ誕生日だよな、今、おめでとうと、言っておくよ。」

 彦一は祝福を、投げかけた。





 振り向かず、軽く片手を振って、薔は去っていった。







 「………………、」
 彦一は何かを考え込んでいたが、きびすを返し歩きだした。















 バタン―――――…

 薔が帰ると、

 「ワン!」
 花子が尻尾を振りながら、可愛くお出迎えです。


 「ただいま、」
 その頭をやさしく撫でてから、薔は共にリビングへと向かいました。







 リビングでは、クッションを枕にしてナナが眠っていた。
 問題集やなんかは、広げたまんまです。


 その姿に、えもいわれぬ安堵を覚えた薔だったが、

 バサッ―――――…

 「は…っ、」

 履歴書の入った袋を床へ落とし、ひどく苦しげに呼吸を始めたのである。



 ギリギリと、首が、絞め上げられるみたいに、痛む。



 「クゥン…」
 花子が悲しげに鳴いて、ご主人さまへと駆け寄る。




 「あぁ、花子、もう大丈夫だ、」

 クンクンと、瞳を潤ませ小さく鳴きつづける花子の、頭を再びよしよしすると、


 薔はゆっくり、ナナへと近づいていった。





 ぐっすり眠っている、可愛いその寝顔が堪らなく切なくて、

 ぎゅっ


 「ナナ…」

 やがて薔は静かに、愛しいひとへと寄り添ったのでした。






 …――例え、何があっても、

  おまえがすべてなんだよ。








 『...In me,you are all.』

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