第50話:Love(&Crisis?).38






 「………ぁっ、」

 仄暗いなかで、微かな声が聞こえる。


 「もっと声、上げていいよ、」
 と言ったのは、狼男のなで声で、

 「ひ…、あ…っ、」
 苦しげに甘い声を上げているのは、羚亜だった。


 それとともに、淫音すら立っている。



 「はぁっ、はぁっ、やめ…、ぁ…っ、あぁ…、」
 虚ろな瞳から涙を流し、羚亜は瞳を閉じると暗闇に呑まれていった。










 ――――――――…

 同じ建物内にて。

 「ぇぇえ?どういうこと?女の子なのに、今までで一番強いじゃん!」
 黒スーツのオトコらは、冷や汗をかいていた。


 (どうしよう?わたし、めちゃくちゃ強いんだけど、これもやっぱ“愛のちから”なのかな?エヘッ、)
 とか、こころで呟くナナは快進撃を続けており、愛のちからか、はたまた愛の相乗効果か、かなり彼女は最強だった。



 「はやくね、あんたらが捕まえてる男の子、返しなさいよ!」
 威厳たっぷりで、叫ぶナナ。


 「これではらちがあかない!ボスを呼んでこよう!」
 青ざめた一人が叫ぶと、
 「しかし、今ボスは奥の部屋で、あのヴァンパイアを…」
 また一人が、口ごもった。


 (今、なんて――――…?)
 ナナは耳を疑ったが、

 「やむを得ない、はやく!」
 の叫びの後、何人かが奥へと走っていった。




 「我々は、時間を稼ごう。」
 残ったオトコらが、まとまって、ナナへと歩み寄る。

 (うわぁ…!気持ち悪い!)
 恐怖はなく、ただドン引いているナナだったが、

 「あんたら、それでも男か―――――――――っ!?」
 無性に腹が立って叫ぶと、突進していった。












 …――今宵の満月は、吉と出るか?凶と出るか?






 ひとりの女の子ヴァンパイアに、まったく歯が立たないオトコらはかなり焦っていた。

 (いやぁ、これならわたし、一人でなんとかできちゃうよ!)
 ナナさんは、ノリに乗っていた。




 しかし、

 「はい、そこまで。」

 男とも女とも取れる声が、場を貫いたのだ。




 「ボス……!」
 オトコらは、安堵の表情を浮かべる。

 「はい………?」
 目をぱちくりさせ、ナナがそちらを見ると、


 見た目オネェ系の男性が、ほぼ全裸に近い羚亜を抱いて立っていた。
 羚亜には、ナイフが向けられている。




 「なんてカッコを、させてるの―――――――――っ!?」
 憤慨しまくったナナは、まずその点についてツッコんでおり。

 「これは威勢の良い、お嬢さんだ。」
 狼男は、笑っている。


 「いや、あんたね、なにやってるの?変態なの?」
 「ふふふ。」
 ナナと狼男は、こんな感じで、周りはポカンとしている。




 「よし、君もお仕置き決定だね。」
 狼男は、ナナに向かって笑って言ったので、
 「お仕置きって言葉が、まったく似合ってない!あのひとだとおそろしいくらいにときめくけど、あんただと吐き気がするよ!」
 怒ったナナさんは、その通りだがけっこう厳しい内容を、それとなく叫んだ。



 「大人しく、捕まったほうが君のためだよ…」
 ふと、羚亜がこんなことを忠告したので、
 「いや、キミがね、そんなことさえされてなければ、わたし責任持ってここをなんとかできるんだよね…」
 ナナはブツブツ、独りごちた。




 「来なさい。」
 ダメージのなかった数人が、ナナを取り押さえにかかる。

 「さわるな――――――っ!!」
 薔の言いつけを頑なに守ろうと、ナナはめちゃくちゃに暴れ出した。


 「困った子、」
 狼男は、笑っている。





 そこへ持ってきて、


 「ワオ――――――――ン…!」


 いくつかの遠吠えが、響き渡った。






 「何事っ!?」
 狼男は、やっぱりオネェ系の仕草で。



 「あああああっ!」
 鳴き声を聴いただけで、ナナの瞳はパアァと輝きだした。

 「花子ちゃんだぁ――――っ!!」







 「ワンワンワン!」
 外では、沢山の狼達を、毛並みのやたら良いゴールデンレトリーバーがまとめ上げている。




 「ということは、あのひと来ちゃったの!?」
 期待なんだか歓喜なんだか、あちゃあなんだか、ナナが声を上げた瞬間だった。




 バリ―――――――ン…!

 階下で、いくつものガラスが弾け飛ぶ音が、なぜか心地よく耳に響いた。
 いくつもの中で、ひとつだけだったのかもしれないけどね!









  …――Now, do I riot?

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