※※第67話:Make Love!(+Fall).20
その夜。
薔が夕食の支度をするなか、ナナと花子はリビングにて“ザザえもん・秋の一時間スペシャル”を観ておりました。
テンポのよい、15分ほどのコメディの後。
なんと、ザザえもんを造った博士が過去からタイムマシンで連れ戻しにやって来るという、ちょっと重めのミニドラマが始まったんです。
『やだぁ、おいらピノ太くんと、ずっと一緒にいたいよぉ。』
画面の中で、泣きじゃくるザザえもん。
『そうは言ってもザザえもん、お前はこの子に迷惑を掛けるだけだろう?私が屋根の修理代は全額持ってきたから、大人しく過去へ帰りなさい。』
『やだやだぁ。』
博士は辛抱強く言い聞かせるが、ザザえもんは頑としてピノ太くんから離れようとしない。
「…グスッ、」
ザザえもんの姿に心打たれるナナは、既にポロポロと涙を流していた。
花子はそんなナナをキョトンと見上げては、テレビにも視線を送っております。
『ザザえもん、せっかく博士が迎えに来てくれたんだし、過去に帰りなよ。』
『やだよぉ、ピノ太くん、おいらを見捨てないでおくれよぉ。』
ピノ太くんも説得するのだが、ザザえもんは更に泣き出した。
すると、
『はぁ…』
溜め息をついたピノ太くんが、ザザえもんを引き剥がし、
『ピノ太くん…』
そのまま博士へと差し出すのかと思いきや、
『僕のパパ、会社の社長やってるから。』
と言って、なんと、博士へ屋根の修理代を突き返したのである。
『いいのかい?ザザえもんは何も出来ない、役立たずなロボットなんだよ?』
白衣のポケットへ分厚い封筒を戻しながら、博士が尋ねると、
『うん、いいんだ。僕はザザえもんがいるだけで、毎日が楽しいから。』
ピノ太くんは初めて、子供の笑顔を見せた。
『ピノ太くんっ…!』
大感激の、ザザえもん。
『そうか、なら、ザザえもんをよろしく頼むよ。』
深々と頭を下げた博士は、タイムマシンで過去へ戻っていきました。
『ピノ太く――――――ん!』
ザザえもんはピノ太くんへ、ひしと抱きつく。
『こらこら、ザザえもん、そんなに強く抱きついてたら、ホットケーキ焼いてあげられないよ?』
『うぇっ、えっ、えっ、』
もしやこれは、ザザえもんのお話が初めてまともに締めくくられるのか?
とも思われたのだが、
『ザザえもん、いい加減離れてよ、男同士でこれは気持ち悪いからさ。』
ピノ太くんが笑いながら、そう零した直後、
『違うよぉ、おいらこう見えても、女の子だよぉ…』
衝撃の事実が明かされました。
『あはは、冗談きついよ、ザザえもんが女の子なわけないじゃん。』
『信じておくれよ、ピノ太くーん、』
じゃれ合いながら、ザザえもんとピノ太くんは部屋を出て行きました。
……結局は、女の子なの?男の子なの?
多くの人々(特にお子様)が疑問を抱えたであろうが、
「うぐっ…、ザザえもん、良かったねぇ…」
ナナは感動のあまり、号泣しておりました。
「びぇぇっ…!」
ティッシュをこれ見よがしに使い、ソファで泣きじゃくるナナを、
「…………………。」
夕食の支度が終えた薔は、リビングの入り口にて静かに見つめております。
「……………、」
彼は片手で顔を覆い、ふるえながら笑いを堪えるとソファへ歩み寄っていった。
「うぐっ…、う、うっ…、」
肩を震わせ、泣いていたナナは、
ポンッ…
とやさしく、あたまに触れられたのです。
「えっ…?」
ナナが泣きはらした顔を上げると、
「……………、」
薔は目の前にしゃがんで、黙って彼女のあたまをポンポンしておりました。
もはやナナさんは、号泣している場合じゃないので、
「泣くと、腹減るだろ?」
ぴたりと泣き止んだ彼女に向かって、薔は穏やかに、笑って言った。
ナナはこくんと頷き、手を引かれるようにして彼と花子とキッチンへ向かう途中、近くに置かれていたザザえもんのぬいぐるみの団子みたいな鼻を、
ぎゅうっ
と薔が、そちらを見ずに片手でつねったのですな。
…びくびくぅ!
(え?怒ってらっしゃる?)
はてなマークを浮かべるナナよ、違うよ、彼はヤキモチを妬いているんだよ!
でもね、ザザえもんはもしかしたら、女の子かもしれないから!
そこは、お手柔らかに。
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