※※第62話:Make Love!(+Cinema).16







 信号待ちで、ナナはベンツの車内からとあるお店をガン見していた。

 「どーした?」
 隣の薔が声を掛けると、
 「なんか、あのお店、回っていてすごく面白いんですけど…、って、近い!おカオ!」
 極上の至近距離に、すぐさまナナは真っ赤になった。

 「ナナちゃぁん、良かったねぇぇ。」
 こけしちゃんは助手席で、コロコロと笑っている。


 「………………、」
 醐留権は無言で、何かを考え込むと、

 信号が青になった途端、なんと、そのお店の駐車場に入っていったのだ。




 「せっかくの機会だ、かたっ苦しいのは止めておこう。」
 車体に対してちょっと狭くも感じられる駐車場に、ベンツを停めた醐留権は笑っている。

 「大丈夫なのか?」
 「なぁに、予約してあるのは私んとこのグループが、経営するレストランだ、融通は利くようになっている。」

 そして一同は、ベンツから降り立ったのでした。




 おわかりいただけたかもしれませんが、ナナさんの熱い視線により、急遽レストランから変更されたそのお店とは!?





 はい、回転寿司でした。









 一同がお店に入ると、

 「いらっしゃいませ〜!」

 笑顔で迎えた店員さんたちは、

 (なんか、うつくしい団体さんきた〜!)

 冷や汗をかいた。
 団体、つっても、6人だけど。



 「申し訳ございません、只今テーブル席が空いておらず、カウンター席へのご案内となってしまうのですが、」
 申し訳なさそうに一人のお姉ちゃんが言ったので、よくよく見ると店内のテーブル席はひとつも空いていなかった。

 「カウンターで構わないさ、」
 醐留権が微笑んで返しましたので、運良く並んで空いていたカウンター席に、みんなして着いたご様子です!







 「愛羅さん、何食べる?」
 「あたし、かっぱ巻きがいい!」
 テンション上がる愛羅の隣、羚亜はかっぱ巻きへと手を伸ばした。

 「ゾーラ先生ぇ、お茶ねぇぇ。」
 「すまないね、桜葉。」
 こけしちゃんが差し出したのは玄米茶だったのだが、醐留権は煎れてくれたのが彼女だと、玉露でなくとも難なく飲めた。



 (おおおっ…!)
 ナナは回ってゆくお寿司たちを、興味津々に目で追っている。

 「おまえ、なんか取れよ。」
 堂々とナナに声を掛けた薔は、さり気なくお茶やなんかを彼女の前に置いていた。


 「どれがいいんだか、まったくわかりません…!」
 もはやナナさんは、目が回りそうな勢いである。

 すると、

 「ん、」

 薔が目の前に、一皿取って置いたのだ。



 とりあえず、中トロだった。




 「あ、ありがとうございます…!」
 初めてのお寿司に緊張しながらも、ナナは箸を手に取る。

 「これ付けて食えよ?」
 「あっ、はい、」
 あやうく初めての回転寿司を、醤油無しで食べるところだったナナは、すんでのところで薔に忠告された。



 ぱく

 ちゃんと醤油を付けて食べてみると、寿司はめちゃくちゃ美味しかった。

 のだが、

 つーん

 一足遅れて、わさびがやって来た。


 「んんん……!」
 涙ぐむ、ナナ。


 そんでもって彼女は、あまりの痛さに、

 ぎゅっ

 隣に座っている薔のシャツを引っ張って、

 「薔………」

 涙声で言ったのです。

 「鼻に、何かが、刺さりました……」






 「痛いぃ…」
 鼻を手で覆い、ウルウルしているナナを見て、

 「……………?」

 一瞬、薔は、キョトンとしたのですな。



 ところが、すぐさま彼は、口元を片手で押さえ俯いた。


 「どうしたんですかぁ!?薔にも刺さったんですかぁ!?」
 泣きそうではあるが、懸命に薔を心配する、ナナ。

 「おまえ、大丈夫だから、少し、黙ってろ、」
 と言った薔は、微かにふるえながら必死で笑いを堪えているようだった。




 「んあぁ…痛いぃ……」
 「おい、あんまかわいいこと、言うな、」

 この光景を見ていた、こけしちゃんと醐留権と羚亜と愛羅は、なんだかんだでナナさんのことを、すごい、と思っていた。
 こけしちゃんの場合は、すごいぃぃ、だけどね。

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