※※第62話:Make Love!(+Cinema).16
『映画ザザえもん ピノ太のジュラ紀の漂流記』
ほどなくして、チケットを切った羚亜と愛羅は、シネマ1の前に立ち尽くしていた。
そのタイトルは韻を踏んでいるのか、とにもかくにもナナと薔が観に来たのは、映画ザザえもんのようであった。
「ザザえもん……」
唖然とする、羚亜と愛羅。
「あれ?あたしの見間違い?」
動揺を隠しきれない愛羅は、目をぱちくりさせて、
「見間違いだと思いたいけど、見間違いじゃないね…」
羚亜は愕然としている。
「えっ?まさか、舞台挨拶とか…?」
「愛羅さん、舞台挨拶ならフツー、初日にするでしょ…」
いや、羚亜くん、ツッコむとこ、そこじゃあ…
「だいたい、三咲さんならわかるよ?敵にさらわれたお姫様の声優とかでさ…、でもザザえもんて、イケメンキャラが出てくるようなやつじゃないじゃん、薔くんは何のキャラの声優をやるの?ナレーションとか?」
「それもそうだけど…」
おふたりさん、そんなに真剣に悩んでないで、自分らが観に来た映画を一刻も早く観に行ったほうがいいよ。
「あっ!早く行かないと、血まキチ始まっちゃう!」
「えっ?ほんと?」
ようやく気づいて急ぎ始めた羚亜と愛羅が観に来たのは、
『惨劇〜血まみれキッチン〜』
という、洋画だった。
どう考えても、スプラッタ映画のようであった。
いそいそと走っていった、羚亜と愛羅の後ろにて。
「おや?」
眼鏡をくいっとさせたのは、よくぞここで登場してくれましたね、な、醐留権先生でした。
「ゾーラ先生ぇ、どぉぉしたのぉ?」
首を傾げ、隣のこけしちゃんが尋ねると、
「いや、今、ザザえもんの前に、羚亜がいたんだが、」
醐留権はこんなことを、明かしました。
ふたりはまだチケットを切れていないので、確かめに行きようがないんです。
「羚亜くぅんは、ザザえもんを観に来たのねぇぇ。」
「あ、あぁ、奥へ走っていったような気もするが、きっとザザえもんを観に来たのだろう。」
ザザえもんを観に来たのは別のひとたちなんだが、羚亜が(彼女と)観に来たのは血まみれキッチンなんだが、醐留権は己のなかでなんだか納得してしまったようだ。
「まだ開場まで10分はある。桜葉、何かほしいものはあるか?」
「えぇ?いいのぉぉ?」
「もちろんだとも。」
ドリンクやなんかの売り場で立ち止まる、醐留権とこけしちゃん。
ちなみに、こけしちゃんのたっての要望で、ふたりが観に来た映画は、
『君と僕の空』
という、邦画だった。
どうやら、カップルで観ると最もロマンチックな雰囲気になれそうな映画を観に来たのは、こけしちゃんと醐留権のようであった。
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