第60話:Love(&Missing…).42






 「………………、」
 学校の雰囲気も、それは大人しいものだった。

 ガラスは張り直され、全校集会も開かれたりしたなか、何人かは恐ろしい事実を悟っていた。


 あの日の朝、床に血痕のついた自身の教室へと駆けつけたナナが、泣きながら薔の名前を呼んでいたこと。
 そして彼が、何日も学校を休んでおり、その行方が未だわかっていないこと。


 それらからして、皆、口に出したりは決してしないが、薔の身に尋常ではない何かが起こっていることを、受け入れたくないこころの奥底では、感じ取っていたのだ。



 残された脅迫まがいのメモに脅かされ、それでも教師らは、次の被害が出た場合は警察に連絡しようと、決心をしていた。




 …――しかし、“誓い”によると、次の被害は出ない、はずだった。










 ――――――――…

 「ナナちゃぁん、一緒にお弁当食べよぅぅ?」
 お昼休み、こけしちゃんがナナの机に向かってやって来た。
 こけしちゃんのニコニコも、ここのところ元気がない。

 「うん、ありがとう。」
 ナナも微笑み返したが、うまく笑えたのかは自分でもよくわかっていない。


 「あのねぇぇ、今日はあたしぃ、お豆煮てみたのぉ。」
 驚いたことにこけしちゃんは、薔がいなくなった次の日から、毎日ナナにお弁当を作ってきてくれるようになったのだ。
 こけしちゃんのとおんなじものだったが、中身のほとんどが手作りの、あったかいお弁当だった。


 「こけしちゃん、いつもごめんね?」
 「うぅんぅ、気にしないでぇ。あたしお料理大好きなのぉ。」
 申し訳なさそうなナナの前、こけしちゃんは微笑んだ。
 それでもやっぱりどこかしら、悲しげなにっこりで。



 羚亜が編入してきてからは、よく、ナナと薔とこけしちゃんと羚亜の4人で、机を囲んでいたのだけど。

 泣きたくなる、何度も。



 しかしナナには、こけしちゃんがあれやこれやと立ち入らないこと、それなのにいつもやさしく気にかけてくれること、それがとてつもなく、ありがたかった。










 (…――そう言えば、)
 こけしちゃんの作ってくれたお弁当の煮豆やなんかを、少しずつ口に運びながらナナはふと思い浮かべる。

 (醐留権先生が言ってた、“緑色のコートのヤツには気をつけろ”というのを、こけしちゃんは知っているのかな?)



 薔がいなくなった次の日に、それは醐留権が密かに、ナナへと忠告した言葉である。

 醐留権はナナだけに、その忠告をしたのだろうか?
 しかし彼ならその忠告が、こけしちゃんに必要であればこけしちゃんにも絶対にするはずだ。




 緑色のコートを着たヤツとは、薔の失踪と一体どんな関係を持っているのだろうか?


 考えるべきことは、たくさんある。




 …――なのにわたしは、ただ、薔に会いたい気持ちでいっぱいなんです。

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