※第57話:Love(+Sweet!).41






 入れ替えが、ほぼ完了した時点でのことだった。


 「だれが勝手なことを、しとるんだ―――――――っ!?」

 ドアを開けて、なんと、必汰が飛び込んできたのだ。


 「ここは俺に任せとけ。」
 すると夕月は悪戯っぽく笑って、ナナと薔を、前に垂れ下がったカーテンの後ろに隠した。


 密着しているため、ナナの心臓は破裂してもおかしくないほどであるが、薔は落ち着き払って、おもてには出していないがかなり楽しんでいる。





 ふたりを隠してしまうと、

 「あなたが醐留権さんか、」

 夕月は、明るいハスキーヴォイスで言ったのでした。

 「おたくの息子さんには、うちのが世話になってるようで。」

 と。



 「あんただれよ?」
 息を切らす必汰に、
 「こういう者だ。」
 夕月は、名刺を渡したんですな。


 「お名前は、存じ上げております。いや、これは、失敬した。」
 途端に必汰は、ペコペコし始めた。


 「新郎と新婦とは、どういったご関係で?」
 夕月はこんな質問をしましたので、
 「いえ!うちの息子が新郎ですよ!」
 慌てる、必汰。


 「は?」
 ところが、圧倒的威圧感で、夕月は言い放ちました。

 「今日の披露宴は、モデルの椎那(しいな) 梨果子と水瀬(みなせ) 春希のモンだぜ?」

 とね。




 「ぇぇえ……?」
 必汰が唖然としたところで、

 「なんだ、会場開いてるじゃん。」
 招待客がゾロゾロと、会場入りしてきた。



 「これは…っ、なにかの間違いだ!」
 青ざめる、必汰。



 に向かって、



 「あ〜な〜た〜、」



 やたら低い声を掛けた、ひとりの人物がいた。




 必汰がパッと振り向くと、

 「なに勝手なことしてんだ、コラ。」

 そこには、要母であり必汰妻の、洋子が仁王立ちしていた。



 必汰は、声を張り上げた。


 「洋子ちゃん!必汰、会いたかったの〜!」










 「お仕事だったの?洋子ちゃんは、偉いねっ!必汰、惚れ直しちゃったあっ!」
 いきなり甘えだした必汰に、会場にいるだいたいの人物は仰天している。


 「お黙り!この甲斐性なしが!」
 一流財閥のトップを甲斐性なし呼ばわりした妻は、厳しく言いました。

 「要にはね、悠香ちゃんという、とっても素晴らしい彼女がいるのよ!?なに勝手なことしてんの!?このボンクラ夫が!」


 …ボンクラについては、懐かしいにもほどがあるが、まぁ、それはよき思い出として。




 「洋子ちゃ〜ん、そんなに怒らないでぇ?」
 「怒らないとあんたは、いつまで経ってもわからないでしょうが!」
 必汰はすり寄るが、ピシャリと返されるだけだ。



 「だいたいあんたね、もし悠香ちゃんが泣いたりしたら、どう責任とるつもりだったの!?」
 「えぇ〜、」

 こんなやりとりを、妻と夫が交わしていると、

 「お母さん、」

 端から、息子の声がした。

 「桜葉はすでに泣きました、二度も。」







 「あぁっ!要っ!」
 気づくとふたりの横に、こけしちゃんの肩を抱いた醐留権が立っておりました。


 「お前、どこいって」
 「か〜な〜た〜、」

 はっとして妻を見ると、

 「お前、ちょっとこっち来い。」

 洋子の後ろからは、ゴゴゴゴゴ…という音が聞こえてくるかのようだった。




 「洋子ちゃ〜ん!ごめ〜ん、許してぇ〜!」
 「黙らっしゃい!お尻ペンペンよ!」
 泣きわめく夫を、怒りの妻は引きずり歩いていった。




 ……お、お尻ペンペン…、




 「ブブッ、」
 震撼すべきこの場面で、ほとんどの皆さんは笑いを堪えていた。






 「ゾーラ先生ぇのお母さんてぇ、頼もしいのねぇぇ。」
 「あぁ、しかも、うちの家業は、兄の奏(かなで)が継ぐことになっているのを、すっかり忘れていたよ。」

 要ズファミリーは、バラエティ豊かなんだか、なんなんだか。



 「こいつぁ、なかなかいいモンが見れたなぁ。」
 夕月は、くっくっと笑っていた。



 ふるふる…

 カーテンの向こう、床に膝を抱えて座るナナは、ぶるぶるとふるえている。

 「どーした?」
 隣に胡座をかいて座る薔が、ナナの顔を覗き込むと、


 どうやら、ナナさんは、必死で笑いを堪えているようであった。



 薔はクスッと笑って、

 ちゅっ

 笑い声が外に響かないようにと、ナナのくちびるにキスを落としたのでした。


 ナナは真っ赤っかになったので、笑い出すことはなかった。

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