※第57話:Love(+Sweet!).41






 てきぱきと会場準備は成され、11時前には料理以外のものが丁寧にセッティングされた。

 そして、撮影などに差し支えないように、と、夕月の希望で会場にはナナと薔と夕月の、三人だけになった。




 簡単な計画の説明も終えたところで、夕月の悪巧み、いよいよ開始です!











 「喜べよぉ。こいつぁ俺の力作だ。」
 笑いながら夕月は、スライドショーのために用意されたDVDを、入れ替えている。


 「おおお…!親友の彼氏さんのお名前に線を引くのは、気が引けますね!」
 「そこは心を鬼にしろ。」
 購入したペンセットを使い、ナナと薔はプロフィールやなんかを、書き換えております。


 「おい、おまえのその字は、何体ってんだ?」
 「たい!?」
 とか、仲良く会話をしながらね。



 悪巧み主催者の夕月は、とても穏やかに笑いながら、ペーパーアイテムに一工夫入れ、入れ替えられるものは全て入れ替えております。




 すると、まだ12時にもなっていないというのに、

 「いやぁ、ははは!わし、どうやら一番乗りじゃん!」
 頭がツルッツルで羽織袴のおじいさんが、センスが良いとは言い難い扇子であたまを仰ぎながら、扉を開けつかつかと中に入ってきたのだ。




 「おい、」

 ……………はい?

 堂々と声を掛けられ、ご老人が顔をそちらに向けると、

 「だれが入れと言った?この擬人化クラゲが。」

 有無を言わせぬ視線を、すぐさま送られた。



 「すいやせんしたぁ!!」
 勢いよく謝罪すると、ご老人は会場を飛び出していった。




 「ったく、油断も隙もねぇな、」
 呆れた声でてきぱきと仕事をする薔のまえ、ナナは真っ赤でぶるぶるとふるえておった。








 バタン―――――――…

 会場のドアを閉めたご老人は、

 「うふっ、イケメンに叱られちゃったあっ☆」

 折り畳んだ扇子でツルッツルのあたまをペチンと叩き、ルンルンと近くのロビーまでスキップしてゆくと、

 ちょこん

 とソファに腰掛けたのでした。










 ――――――――…

 「かっ、会長ではないですか!?」
 けっこう長い間腰掛けていたご老人に、とある男性が声を掛けた。

 「おぉ、二木(ふたつぎ)さんとこの、倅くんではないか。」
 ほほほと笑いながら顔を上げたご老人に、
 「お会いできますとは、光栄でございます。」
 二木(倅だけど)は、深々とあたまを下げた。


 「まぁ、まぁ、そんなに、かしこまらんといて。」
 「そんな、できません。」
 二木の低姿勢からも窺えますが、どうやらご老人は、かなりすごいとこの会長さんみたいである。


 「13時からの披露宴に、ご出席ですか?」
 「まぁね、」
 なんだか会長は、ほくほくしておるが、
 「まだ会場には、入れないんですか?会長をこのような場所で待たせるのは、あまりにも失礼ではないですか?」
 二木はそう言って、会場の様子を窺いに行こうとした。


 ところが、会長は明るく言ったのでした。

 「いやぁ、あのね、目を疑いたくなるほどのイケメンに、“まだ入るな”って、叱られちゃってぇ。」




 …えええ!?
 なにこのジィさん、ボケが始まってるの!?



 おまけに会長さんよ、まだ入るな、とは一言も言われておらんよ。




 「会長、もしや、携帯ゲームにハマってらっしゃるのですか?」
 「いやだなぁ、二木くんたら、わしゃ携帯なんて電話しか使わないよっ。」
 プププッと笑う、会長。


 「それより二木くん、」
 「はい、なんでございましょう?」
 ぽわんとした会長は、こんなことを尋ねてきた。

 「わし、クラゲに見える?」

 ってね。




 「見えなくもないですね!」
 二木は震えておるが、
 「やっぱりぃ?イケメンに言われると、クラゲでも嬉しいもんだね。」
 会長はなんだか、うっとりしておる。


 「とりあえず、会場に行きませんか!?」
 「ダメだってぇ、二木くん。これでもかってイケメンに、怒られちゃうゾ☆」

 ツンツンする、会長。



 「えええいっ!イケメン・イケメンて、こちとら言われたことないんじゃ〜い!」
 「まぁまぁ、二木くん、落ち着いてっ。」





 薔はどうやら、おじいちゃん世代からの支持も熱々なようである。

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