※第57話:Love(+Sweet!).41






 「うーん、イマイチしっくり来ねえなぁ。」
 会場にて、こう呟いた夕月は、

 「米草さん、」

 に言ったのでした。

 「じつは本日13時からの披露宴、俺も招待されてましてな、お二方の許可は取ってあるので、今すぐ会場準備をしていただけませんか?」

 と。



 「い、今からですか?」
 「あぁ、料理はまだ大丈夫ですので、」
 米草は戸惑っていたが、こう付け足した夕月に圧倒されたようで、

 「かしこまりました。」

 きびきびと歩いて、いったん去っていったんだとさ。



 ナナにはなんのことだかさっぱりわかっていなかったが、薔はおおよその事態を把握していた。











 ―――――――――…

 「要っ!要はどこに行ったんだ!?」
 醐留権邸のなかを、必汰がドタバタと走り回っている。

 「必汰さま、落ち着いてくださいませ!」
 「これが落ち着いていられるか〜い!」
 事態は、てんやわんやである。


 「むぅ、要がいないなら、登紀子叔母さんとこの羚亜くんを身代わりに仕立て上げようと思ったんだが、彼もいないじゃないか!」
 憤慨する、必汰。


 …うわぁ、この旦那様、サイアクだぁ。

 使用人のほとんどが、そう思っていた。



 「どうするんだ!?各界のお偉いさん方を招き、13時から披露宴だってのに!その前に、婚姻届も出しに行かないとならんのに!」
 あたまを抱える、必汰。


 「手当たり次第に、要の行方を探せーっ!」
 必汰の言いつけにより、屋敷内はいそいそと動き出したが、動いているだけであって探すことはしなかった。

 皆さん、“要坊ちゃんが一番頼りになる”、と、慕いまくっているからだ。








 ―――――――――…

 醐留権が目を覚ますと、こけしちゃんは彼に抱きつき、眠っていた。
 そのまぶたからは、涙が伝い落ちている。

 「ずっと笑っていたが、桜葉も辛いんだな…」
 醐留権はその涙を、ゆびでそっと拭い、

 「強いように思えても、私には護るべきひとりの女性だ。」

 そう、呟いた。




 「――――――――――…」

 そのとき、醐留権のなかには、ある根本的な閃きが浮かんだのだ。




 「…私は、なぜそれに、気づかなかった?」
 急いで醐留権が、携帯を手にすると、

 「うんぅ…、ゾーラ先生ぇ、どぉぉしたのぉ?」

 ムニャムニャと、こけしちゃんが目を覚ましたようである。



 「桜葉!私たちは、胸を張って帰ろう!」
 「えぇぇ…?」
 何事かと思うこけしちゃんの隣、力強く醐留権は告げました。

 「“愛を以て愛を制す”だ!」

 ってね。



 「ゾーラ先生ぇ、かっこいいぃ。」
 こけしちゃんは楽しそうに、コロコロと笑っていた。

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