※第57話:Love(+Sweet!).41






 出掛ける際の、お話。

 「いいか?ここにおいての主導権は、すべて花子にある。」
 ソファに腰掛ける羚亜へと、目の前に立った薔が堂々と言い聞かせていた。

 「はぁ…」
 羚亜はまるで気のない返事だが、
 「迷ったら、花子に従え。逆らうことは許されねーぞ。わかったか?」
 薔は見下ろし、つづけます。


 「うん、いちおう、わかった…」
 「ちゃんと“花子さま”と呼べよ?」

 ……えええ!?


 「なんでそんな、さま、なんて…、」
 「なら、すぐに出てけ。」

 ……うぐ。


 「よ、よろしくお願いします…、花子さま……」
 納得がいかないにもほどがあったが、羚亜が控えめに挨拶をすると、
 「ワン!」
 花子は尻尾を振って、元気よく返した。



 ……あ、かわいい。



 「な、撫でてもいい…?」
 突然、羚亜の周りには、ちょいとしたハートマークが飛んでいた。



 「花子、こいつを頼んだぞ。」
 尻尾を振ってお見送りする花子に、羚亜の子守は託された。












 ――――――――…

 如月が迎えに来ており、途中、みんなしてコンビニに寄った。

 なんだかカラフルなペンセットをひとつと、朝ご飯も食べて来なかったナナと薔に、夕月がサンドイッチやらおにぎりやらペットボトルのお茶やらを、買い込んでくれたのでした。



 リムジンの車内にて。

 「このお茶、冷たいですが美味しいですね!」
 ナナはお茶をゴクゴクと飲みながら、サンドイッチも片手にはしゃいでいる。

 「今日は気温が暑いからなぁ。」
 夕月は笑っている。

 「おい、おまえ、こぼすなよ、」
 サンドイッチをポロポロこぼすナナを、それもまたツボなんだが、薔が注意している。



 「うぎゃあ!すみません!」
 「はっはっは!」
 サンドイッチがこぼれることなどいっさい気にしてない様子の夕月は、楽しそうに笑っている。


 「美味しそうな匂いですねぇ、」
 如月も、終始楽しそうだった。











 やがて、リムジンがたどり着いたのは、


 かなり高級そうな、ホテルだった。


 「おおお…!」
 感動ひとしきりの、ナナ。


 リムジンは正面玄関に横付けされ、ナナと薔と、少し重そうな鞄を下げた夕月が、降り立ったのでした。






 やって来たベルボーイに、夕月は名刺を渡し、

 「こちらのホテルが、大変素晴らしいとの評判を受けましてなぁ、少し中を拝見させていただきたんだが、」

 と言ったのでした。


 「ご案内いたします、こちらへどうぞ。」
 ベルボーイの後について、三人はホテルに入っていった。







 ロビーにて。

 「こちらで少々、お待ちくださいませ。」

 かしこまったベルボーイが、フロントへ行き何かを説明すると、フロント係は慌てだした。


 「どうしたのですかね?」
 「夕月さんに驚いてんじゃねーか?」
 とか、ナナと薔が会話をしていると、

 「お待たせいたしました。」

 スーツを着た年配の男性が、恭しくやってきました。

 「支配人の、米草(こめくさ)と申します。」

 そして深々と、あたまを下げたのでした。







 ホテルの支配人が、出てきちゃったんだが、

 「はじめまして、夕月です。」

 夕月と米草は、大人な挨拶を交わしている。



 「じつは次のテーマとして、ウェディング会場を舞台にした写真集をと、考えておりましてなぁ、」
 夕月の雰囲気に圧倒される米草は、
 「それはまた、素晴らしいですね。」
 少し冷や汗すらかきながら、かしこまっている。


 すると夕月は言いました。

 「知人がこちらのホテルを、薦めてくれてましてな、会場をじっくり見てみたいのですよ。」

 と。




 「それは誠に、光栄でございます。どうぞこちらへ。」
 素直に案内しようとした米草に、
 「こいつらは、俺の新しいアシスタントです。」
 夕月はナナと薔を、こんな風に紹介したのでした。



 「わたくしはてっきり、モデルさんかと…」
 「さて、案内していただこう。」

 夕月が有無を言わせなかったため、一同はウェディング会場へと向かっていった。

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