愛するしか出来ない。








 「咲………?」
 とうとう我慢がいかなくなり、門のまえでウロウロしていた漣は、力なく歩いてくる咲を発見した。


 「咲っ!」
 すぐに走り寄った、漣だったが、

 「咲、どうしたの…?」

 凍りついた。

 「顔、真っ青だよ……?」





 「大丈夫?具合悪かったの?気づかなくて、ごめんね?今すぐ病院に行こ」

 ぎゅっ

 冷や汗すらかき、慌てふためく漣のシャツを、ふと、咲が掴んだ。


 「漣…………」
 消え入りそうだが、名前を呼ぶ声は確かに耳へと染み入って。


 「どっ、どうしたの?咲…っ、」
 やさしく、声を掛けた漣へと、

 「漣が好きなのは……俺の…、顔とか…からだ……か?」

 俯いて、咲は問いかけた。



 「何言ってるの!?顔とかからだが好きだなんて、好きのうちに入らないよ!僕は咲が好きなの!だからお願い、早く病院に行こ?」
 間も迷いも躊躇いもなく、はっきりと答えた漣のくちびるに、

 チュ――――――…

 そっと、くちづけて、

 「良かった……」

 離れる瞬間、蒼白い顔で咲は微笑んだ。




 「俺も、おまえを…、漣を、ほんとうに、こころから…、」

 「愛し」


 「て」


 愛を返しながら、



 「る―――――――…」




 ドサッ―――――――…



 咲のからだは道路へと、崩れ落ちた。






 「咲―――――――――っ!!」

 漣の悲痛な叫びは、ちょうど戻ってきた柏葉へと届いていた。


 「咲さまは、どの道をお帰りに、なられたのですか?」
 息を切らし、柏葉は携帯を取り出す。

 「すみません!救急車を、大至急お願いいたします!」










 「うぅぅ…っ、咲……っ、」
 泣きながら漣は、あまりにも体温が失われた痩せたそのからだを、ずっと、温めるように抱きしめていた。
















 ―――――――――…

 「…精神的ショックによる、ものだと思われます。」
 漣のまえで、かしこまってはいるが、真剣な面持ちで初老の医師は告げた。

 「そんな……」
 言葉を失う、漣。


 「これといった致命的な外傷も、ございません。ただ、いくつかの擦り傷が、ついておりまして、その…、非常に申し上げにくいのですが…、」
 そして医師は、躊躇いながらも明かした。

 「からだや衣服の所々に、何者かの精液が、付着しております。」

 と。




 「え――――――――…?」
 漣の全身から、血の気が引いてゆく。

 「きっと、肌が擦り切れるほど、何かで拭いたのだと思われますが…、意識が朦朧としていたためか、残っているものがかなり、ございまして……」
 苦しそうに告げた医師のまえ、漣は肩を落とした。


 「そんな……、だれが………」





 「漣どの、お気を確かに……」
 医師はそっと、漣の肩に触れる。


 「私には状況がわかっておりませんが、あなたは心あるおかたです、それはよくわかります。今は彼のそばに、いて差し上げてください。」
 落とされる言葉を、バランスを崩してゆくこころはそれでも聞き取っていた。

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