愛するしか出来ない。







 次の日。

 柏葉の様子がいつもと違うことには、咲だけが気づいていた。


 「本当に今日から、送り迎えはいらないの?」
 漣はオロオロしている。

 「あぁ、行ってくる。」
 呆れたようにクスッと笑って、咲は登校していった。


 心配そうに見送る漣を、心持ちは心配な柏葉が見守っていた。












 ――――――――…

 何事もなく、迎えられた放課後。


 「咲、ちょっといいか?」
 明るい声を掛けてきたのは、やはり、担任の藤堂であった。

 「なんだよ、」
 昨日のこともあるので、少しビクッとした咲が返事をすると、
 「お前にな、学校の予定表やなんかを渡すから、一緒に職員室へ来い。」
 そう説明した藤堂は、昨日とは打って変わって、やさしく肩に触れた。



 「………………、」
 思い過ごしだったか、と考えた咲は、黙って藤堂の後をついて行った。









 「柏葉ぁ、もうすぐ咲が帰ってくると思うと、ドキドキしてきちゃったよぉ。」
 「まるで新婚夫婦ですこと、」
 落ち着かない漣のまえ、柏葉は眼鏡をくいっとさせる。

 「それいいね、柏葉!」
 「・・・・・・・・・・・・。」

 黙り込む、柏葉。



 「ねぇ、柏葉、」
 「…何でございましょうか?」

 そのとき、何もかもが穏やかに、漣は告げた。

 「僕、こんなに幸せでいいのかな?」

 と。




 「本当の幸せであることに、良いも悪いもございません。」
 きっぱりと、柏葉は返す。


 「うん、そうだね。」
 瞳を閉じ、漣はやさしく笑って、

 「柏葉、僕たちのこと、認めてくれて、ありがとう。」

 と、つづけたのでした。




 「それから、いつも導いてくれて、ありがとう。」
 笑って漣が柏葉を見上げると、

 「漣さまはわたくしにまで、どうしてそんなにもお優しいのですか!?」

 頬を赤らめ、柏葉はフィッと部屋を出ていった。




 「柏葉?」
 漣はただ、キョトンとしていた。







 「ありがたすぎますが、いきなりそのようなことを言われてしまいますと、わたくし心の準備が……っ、」
 つかつかと廊下を歩きながら、柏葉は赤く染まった頬に両手を当てていた。














 騙された、と思ったときには、どうやら遅すぎた。

 まだ学校についてほとんど把握していない咲が、藤堂に案内されたのは、


 誰もいない、教室だった。





 「帰る。」
 すぐに咲は、ドアへと手を掛けたのだが、

 ダン―――――――…

 開けさせないよう、ドアに片手を当て、もう片方の手では肩に触れ、耳元で藤堂は言った。

 「お前さぁ、ついこないだまで、ボーイやってたろ?」





 咲は、全身のバランスが失われてゆくのを、感じた。

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