愛するしか出来ない。








 (なんだ、意外と授業なん、簡単なモンだったな、)
 とか思う咲は、すべての授業を終え帰ろうとしていた。

 「……………、」
 クラスメートの女子も男子も、彼の群を抜いた美しさや雰囲気に、圧倒されたのか話しかけることを躊躇っている。


 そこへ、

 「お前は綺麗な指をしているなぁ、」

 明るい声を掛けたのは、担任の藤堂だった。



 「見せてくれよ、」
 笑いながら藤堂は、無理矢理、咲の手を取る。

 「やめろ、」
 抵抗しようとした、咲だったが、

 ギリッ―――――…

 藤堂は、執拗に強く捻るほど、ゆびを絡めてきたのだ。



 「…………っ!」
 思わず咲が顔をしかめると、

 ニイッ

 と笑って、藤堂はゆびを離した。



 「あ…………」
 咲は震えながら、鞄を掴み教室を走り去った。





 「…か〜わいい、」
 咲が出ていったドアを見つめ、藤堂は撫でるみたいな声を呟き掛けた。











 「はぁっ、はぁっ、」
 無我夢中で走っていると、いつの間にか咲は正面玄関にまで辿り着いていた。

 「あのヤロー、何なんだよ、いったい…、」
 息を切らす咲へと、

 「どうなさったのですか?」

 目の前から誰かが声を掛けたのです。



 驚いた様子もない咲が顔を上げると、そこには柏葉が立っていました。

 「…なんでいるんだ?」

 どうせ漣が心配のあまり迎えによこしたのだろうと思い、咲は呆れた声を落としたのでした。








 ――――――――――…

 「……………………。」
 ランボルギーニの車内で、咲と柏葉は終始無言でいた、ように思えたが、

 「なぁ、柏葉って、」

 ふと、咲が口を開いた。


 「何でございましょうか?」
 運転中でも片手で眼鏡を弄り、柏葉は返す。


 すると、咲は問いかけました。

 「漣のことが、好きなんだろ?」

 と。




 「あのような優しすぎる泣き虫さんを、わたくしが好きだとでもお思いになられるのですか?」
 ちょっと言い方を、きつくする柏葉。

 「そういうの、ツンデレ、つうんじゃねーのか?」
 「デレの要素はまったくもってございません。」
 こんな会話をしているうちに、ひときわ立派な建物が見えてきました。

 「つまりは好きなんだろ?」
 「このことは内密に、お願い申し上げます。」
 そしてランボルギーニは、大きな門をくぐり抜けていった。





 車から、ふたりして降りようとしたとき、

 「咲さま、」

 柏葉が、力強い声を咲へと掛けた。


 「なんだよ、」
 咲が目をやると、

 「漣さまを、何卒、よろしくお願い申し上げます。」

 柏葉は深々と、あたまを下げた。




 「もう漣さまは、呆れてしまうほどに、咲さまのことばかりでございます。どうか、あのおかたを、こころから愛して差し上げてくださいませ。お願いいたします。」
 そのまま、柏葉はつづけたが、
 「顔、上げろよ、」
 咲は言った。



 おもむろに顔を上げた柏葉へと、

 「安心しろ、俺はもう、漣をこころから愛してるよ。」

 微笑んだ、咲。




 「漣さまが夢中になるのも、納得できます笑顔ですこと。」
 「ほんとにデレが、微塵もねえな、」
 ここらあたりでおそらく漣は、続くくしゃみが風邪のせいでは?と思い始めていた。

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