闇より深い、愛で。







 「…漣って、すげぇ偉いやつだったんだな。」
 話を聞き終えた咲は、素直な感想を述べる。
 咲は未だベッドのうえで、漣は傍らの椅子に腰掛けている。


 「ほんとは、一緒に暮らせるまでは、言いたくなかったんだけど…」
 漣は俯き、ばつが悪そうに言うので、
 「なんでだ?」
 咲は問いかけた。


 「だって、こんなこと話したら、絶対一緒になんか暮らさない、って、言い張りそうで、怖くて……」
 消え入りそうに言った漣に向かって、咲は笑って言った。

 「怖がりな王太子さまだな。」





 「そんなことより、咲っ!」
 ガバッと咲を覗き込んだ漣は、わなわなと言い聞かせた。

 「ほんとは、咲は、まだ17歳なんだよ!」

 と。



 「ふーん、23歳じゃなかったのか、」
 まったく動じてない咲だが、
 「僕らが初めてセックスした日、煙草吸ってたじゃん!咲は!もう、20歳になるまで、絶対に吸っちゃだめだからね!?」
 厳しく続ける、漣。

 「あぁ、煙草は、犯られてる間に吸うと、落ち着いたんだよ。だからもう、吸う必要ねーだろ?」
 と言った咲は、

 「漣は、いくつなんだ?」

 そう、尋ねた。



 「僕は…、21歳なんだよね。」
 控えめに答えた、漣。

 「俺より、年上だったんだな。」
 ちょっとだけ不服そうに、咲は呟いた。




 「あんまり年上っぽくなくて、なんだかごめんね?」
 元の位置に戻り、漣が俯くと、

 「なに言ってんだ?立派な王太子さまなんだろ?」

 諭すよう言った咲は、次にこう零した。



 「そんな大した人間が、俺みてーなヤツを助けて、良かったのか?」








 「なんてことを、言って…」
 顔を上げた漣は、かなしげな目を深く開いたのだが、
 「俺なん、あのまま、死ねば良かったんだ。」
 咲は天井を見つめ、かなしそうに笑いながら、呟いた。




 “こんなに愛してるのに、なんでそんなこと言うの!?”
 漣は叫ぼうとした。


 それより速くに、

 ふわっ…


 「嘘だよっ…?」


 起き上がった咲が、漣に抱きついて、言ったのでした。




 「ほんとは、漣に会いたくて、仕方なかった…、犯されながらも、ずっと、漣のことだけ考えてた。だから、生きていられた。」
 しがみついてふるえる、痩せた肩を抱いて、苦しくて切なくて、漣はまたしても涙を流していた。


 「漣……」
 咲は何度も、その名を呼んで。


 抱き合うことで分かち合うように、時間も気にせず、ただただ、ひしひしと伝わる、ぬくもりとせつなさを感じ合っていた。











 「そーいや、俺、随分汚れてたはずなんだが、」
 ふと、漣の腕の中で、咲が言ったので、
 「あ、ごめん。僕が勝手に、お風呂に入れちゃったんだけど、」
 またしてもばつが悪そうに、漣は明かした。


 「だから、シャツ一枚なのか、」
 笑う咲だが、
 「ご、ごめん!着せにくかったから、つい、」
 赤くなった漣は、ちょっと慌てる。


 「ちゃんとお風呂、入りたくない?沸かしてこようか?」
 漣がやさしく、提案すると、

 「なら、一緒に入りたい。」

 そう言った咲は、顔を上げた。



 「え――――――――…?」
 漣は唖然としていて、
 「漣……」
 甘い声で名前を呼ぶ咲の瞳はうるんで、微かに開かれたくちびるからは熱い息が零れている。



 「だって、そんな…、」
 口ごもる漣のくちびるへと、そうっと近づいて、
 「やっぱ、いい…、今は……」
 吐息みたいに声を上げた咲は、

 チュ――――…


 くちづけた。




 「ん……………」
 くちびるはそっと開かれ、舌が動いて音を立てる。


 ギィッ

 ベッドはすこし軋んで、咲は膝を立てて起き上がると、覗き込むようにして漣に何度もキスを落とした。

 「ん…っ、ん……」
 チュプッとした音が立って、舌を艶めかしく絡め合う。



 ギシ…

 堪らなくなった漣は、キスをしたままベッドへと乗っていった。

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