闇より深い、愛で。
銃声を轟かせたのは、その場にいた者の誰でもなかった。
「漣さまを、離してください。」
部屋の入り口で銃を持ち、きっぱりとした態度で言い放ったその女性は、真っ黒なスーツに黒縁の眼鏡で、いかにも無駄のない雰囲気である。
「遅いよ、柏葉(かしわば)、」
泣きそうな漣が呟くように言うと、
「申し訳ございません。わたくし、先ほど眠りに就いたばかりだったのです。」
至って冷静に、柏葉は答える。
解放された漣は、ベッドのうえ、意識のない咲へと、ふるえる声を掛けた。
「咲、遅くなっちゃって、ごめんね?」
漣は着ていたコートを脱ぐと、それを咲にかけて、叫んだ。
「はやく鍵を、よこしてよ!」
ためらう男達だったが、
スチャ――――――…
柏葉にためらいなく銃を向けられ、渋々手枷の鍵を、漣に渡したのでした。
手枷を外すと、漣は咲をそうっと抱きしめた。
「非道い…、酷すぎるよ、なんでこんなことできるの?非道いよ…」
そして震える声と共に、ポタポタと涙を落とす。
「一国の王太子さまが、いつまで経ってもお泣き虫さんで、どうなさるのですか?本日ばかりは仕方ありませんが。」
眼鏡をくいっと上げて、柏葉が零すと、
「お、王太子って……」
男達は、狼狽えまくった。
「ご存知ないのですか?呆れてしまいます。そのため、言って差し上げたいことは山ほどございますが、とりあえず今は、責任持ってキサマら方を、わたくし柏葉が連行させていただきます。」
柏葉がそう述べると、
「ふざけるな!このアマ!」
一人の男が食ってかかった。
ところが、
カチャ
その男の額に銃口を押し当て、凛とした態度で柏葉は言った。
「なら、ふざけるなこのヤロー、とでも言ってやりましょうか?次にその汚い口叩きましたら、何もない脳みそぶち抜いて差し上げますわよ?」
男達は、一斉に黙り込む。
「まぁ、ただ弱っちぃだけのあなた方には、こういうとき役立つ強さは備わってませんものね。大人しくわたくしに、付いて来なさい。」
次に柏葉がにっこりと言い放つと、冷や汗をかきながら男達はゾロゾロと部屋を後にした。
「咲、もう大丈夫だよ…、ごめんね?ほんと、ごめん…」
泣きながら漣は、咲をそうっとやさしく、抱きしめていた。
…――あぁ、俺はきっと、
死ぬんだな。
あんなにも聞きたかった漣の声が、遠くで、聴こえるから。
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