闇より深い、愛で。







 次の日の、朝。

 「はぁ―――――――…」
 ベッドの上、深い溜め息をついた咲は、俯きながら髪をかきあげた。
 両手首には、痛々しい痣がついている。


 そのとき、

 「一番のお得意様を怒らせちゃって、どうすんのさ?」

 責めるような、支配人の声が響いた。




 全く動じなかった咲だが、ゆっくりと顔を、声のした方へ向けてゆく。


 部屋の入り口には、いつの間にか支配人が、腕を組み立っていた。




 「勝手に入ってくんな。」
 無感情な眼差しを向け、咲は言い放つ。
 「咲こそ、勝手なことしないでよね。」
 支配人の視線は、冷たかった。


 「俺は、勝手なことなん、してねぇよ。」
 はっきり、続けた咲へと、

 「あのさ、咲の好きな男って、漣っていう客でしょ?」

 冷たく笑いながら、支配人は尋ねた。



 「…違う、」
 ふいっと窓に目をやり、咲はぽつりと告げて。

 「そうなんだ、じゃあ、教えてあげるよ。」
 愉しげに、支配人は明かしたのだった。

 「あの、漣ってヤツの顧客データ、全部デタラメだったから。」








 「――――――――…」
 咲はただ黙って、モノクロに染まった窓の外を眺めている。

 「そんな客にさぁ、軽々しく出入りしてもらっちゃ、困るんだよ。だからもう、二度とアイツには、会えないからね?」
 笑っているのが、ひどい不気味さを醸し、支配人は言ったのでした。



 「…まぁ、そのほうが、あいつのためだな、」
 消え入りそうに笑って、窓の外を見ながら咲は言った。

 「俺なんかと一緒にいても、あいつが不幸になるだけだ。」









 「…わかってた、」
 力なく、咲は俯いて、

 「はぁ…」
 今度は支配人が溜め息をつくと、
 「わかってなんか、ないね、」
 とんでもない言葉を、吐き捨てた。

 「お前はただの売りモンなんだから、特別な感情を持っちゃ駄目。大人しく此処で、からだ売ってればいいの。」






 俯いていた咲の瞳は、深く開かれて、

 「誰にでも同じようにしてよ?挿れてくれれば、誰でもいいんでしょ?」
 支配人がそう言うと、

 部屋にはゾロゾロと、男達が入ってきた。
 その中には、見覚えのある顔もあった。



 「お前が、快楽でしか生きてけない、淫乱な男だってこと、思い知らせてあげる。」

 支配人が言った直後、男達はベッドを取り囲んだ。




 咲はただぼんやりと、その光景を見上げている。

 「すげぇ美人だな、ほんと女みてーだ。」
 「そうだろ?」
 舌なめずりをするとでも言うのか、欲望だらけの視線が、上から下まで咲を舐め回す。




 「暴力は駄目だよ?大事な売りモンだからね。死ぬまで此処から離れられないよう、からだに教えてあげればいい。犯り殺さない程度に、犯ってあげてね。」
 支配人が笑って言うと、


 男達は無抵抗だった咲を、ベッドに縛り付けたのだった。

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