闇より深い、愛で。







 「ん………あ……………」
 ガシャガシャと手枷が音を立て、ベッドに繋がれた全裸の咲は微かな声を上げた。

 「咲、どうしたんだい?最近のお前は、心此処にあらずといった雰囲気だ。」
 彼にねじ込んでいる、いわゆる“上客”の男が声を掛けると、
 「なんでも…ねぇよ…、それより、ッ、はやく…、だせ…っ、」
 苦しげに息を吐いて、咲は答えた。



 すると、ぎらつく目を見開き、上客は問いかけたのだ。

 「お前、もしかして、好きな男でもできたのか?」







 「だったら…、どうすんだ?」
 うっすらと瞳を開けた咲が、聞き返すと、
 「絶対に許さない。」
 男はいきなり、切れるほど深くまでねじ込んだ。


 「あ…っ!痛っ、」
 激痛に悶える咲へ、これでもかというほどに突き立て、
 「咲、お前はな、お前に惚れ込んでいる男、全員のモノだ。一人の男に特別な感情を持つことなど、絶対に許されないんだよ…!」
 険しい表情の上客は、諭すように言った。


 「ぁう……っ!」
 自由を奪われ、咲はただ、苦しみに身を捩る。



 そのとき、言葉は落とされた。


 「私がいくら、お前につぎ込んだと思ってるんだ!?」










 「―――――――――…」
 ふと、瞳に光が失くなって、虚ろに開くと咲は声も息も止めた。


 ッ――…

 まるで闇の中にいるみたいなその瞳からは、一筋の涙が零れ落ちる。



 そして、

 「…わかってる、俺なんて、からだしかない生き物だ……」
 虚ろなままの咲は、涙を流し、笑いながらぽつりと言った。









 「そんなことを、言ってるんじゃない!」
 叫び、男はめちゃくちゃに腰を振る。

 「ひ…ぐ……っ、」
 濡れた瞳をきつく閉じ、咲はベッドに押し付けられたが、

 「愛のある…セックスは…、あっ、気が狂うほどに…っ、イイんだよ……」

 絞り出すような声で告げると、

 スゥ――――…

 光を失くした瞳を薄く開き、ふるえる声で哀願したのだった。



 「殺してほしい……」


 と。







 「…それはできない、私は、犯罪に手を染める訳にはいかないんだよ。」
 少しだけ動きを緩めた男が、はっきりと述べる。


 「そう…だよな、」

 微笑を浮かべ、咲は返した。

 「あいつだったら、“こんなに愛してるのに、なんでそんなこと言うの?”って…、言ったんだろうな……」







 「生意気も過ぎると、可愛げをなくすものだ。」
 汗を流す男は、再び乱暴に動き出し、
 「苦し…っ!やめ…、ぁっ!やっ!痛っ…、やぁぁ…っ!!」
 髪を振り乱す咲の手首に、枷は食い込んでいった。

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