教えて、愛を。





 「は?」
 咲の表情は曇って、冷静を保とうとした。


 「おまえは、恋人いんじゃねーのか?」
 そして、厳しく問い詰める。

 「え……?どうして、ですか?」
 青年は顔をあげて、手を離してキョトンとした。

 「恋人にしか、やんねーだろ。薔薇の花束なん、」
 そんな彼に、口調は変わらぬまま咲はつづける。


 「ち、違うんです!」
 すると青年は身を乗り出して、必死になって否定した。


 「なにが、だ?」
 咲は青年のまえで、落ち着き払っていられたが、


 「あの薔薇は、亡くなった母に、手向けたんです……、」

 こう言った青年は、また俯いた。
 長いまつげが、影を落とす。


 「会ったこと、ないけど、薔薇が大好きだったって、聞いたから、あの日は、母の命日、だったから、」

 青年の声は、かすかにふるえていた。



 「あぁ、それは悪かったな。」
 自然と声色が穏やかになった咲へ、

 「あなたは、なにも悪くない。僕が勝手に、喋っただけです。」
 きっぱりと述べた青年は、顔をあげた。

 雰囲気は丸いというのに、端整な顔立ちだった。




 「まぁ、そう言うな。追加料金なしで、ヤってやる。」
 はじめて青年の顔を真剣に見た咲はドキリとしたが、表には出さず、なだめるように言った。

 「え…………?」
 唖然と立ち尽くす青年に、


 「来いよ。」


 咲は微笑みかけた。




 「は、はい………、」
 青年は、目をぱちくりさせた後、ゆっくりと歩み寄った。

 「どこ、座ります?」
 ベッドのまわりでキョロキョロする彼の、

 グイッ――…

 腕を掴んで、

 「わぁっ………」

 ちいさく声をあげたそのからだを、


 ドサッ


 咲はベッドに押し倒した。




 「や、あの…っ…………」
 青年は起き上がろうとしたが、

 クイ―――…

 そのやわらかな頬を両手で挟み込み、うえに乗ると、

 チュク

 からだを押しつけるようにして咲は激しくくちづけた。


 「ふぅ……っ……………」
 青年は咲の手首を掴んで、彼のしたで悶える。

 「は…っ………ん……………」
 息をするのに懸命な青年だが、そのためにくちを開くたびに咲は舌を押し入れた。

 「んんっ…………」
 濡れた舌さきが唾液のなかで絡み合い、クチュクチュと卑猥な音をたてる。


 「んぅ………………」
 やがて青年は、ぐったりと腕を落とした。




 チュプ―――…

 舌を抜き、くちびるを離すと、

 「はあっ…………はあっ………………」

 青年は火照り、だらりと横たわる。


 チュ

 その顎から首すじへと、咲は何度もキスをしてゆく。


 「やめ、て………こんな…コト…………」
 青年はビクビクとふるえているが、声を振り絞った。

 「なぜだ?俺を、犯したかったんだろ?」
 キスはつづけ、囁く咲に、

 「ちがっ…、僕は、ただ、お話が、したかった、」

 そう告げた青年は、せきをきったように泣きだした。



 「なんで?なんで、犯すの?好きなのに、会いたかったのに、」


 彼は涙にあふれた瞳を、右手の甲で、覆い隠した。

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