Affair.1『女王誕生?』








 (あああ、終わった、あたしの初恋……ついでに体力テストも……)
 そのあとの夏は、まるで脱け殻のようだった。
 ほんとうにこの子は体育が苦手なのだなと、クラスメートたちは腫れ物に触るようだ。

 癒し系ならいただけるが、チャラ男はいただけないというのが、今しがたできた夏のポリシーだった。


 (蕪木先輩……、容姿端麗なのに、あれぞまさしく残念すぎるイケメンよ……)
 皆にこの衝撃の事実を明かしてあげたいが、生憎そのような勇気を夏は持ち合わせていない。







 「かんきっ、えっと、日向さん……」
 「はい?」

 と、うなだれていた昼休みに、クラスメートの男子が恐る恐る声を掛けてきた。

 「蕪木先輩が、呼んでるけど……」


 …………ええ!?





 驚いた夏は、ガバリと顔を上げ男の子が示したほうを見た。

 「あっ!いたいた、なっちゃ〜ん!」
 蕪木先輩は、夏に向かって両手を大きく振った。
 犬みたいだ……周りはそう思った。



 ……なっ……

 ……なっちゃん?……


 なっちゃんという単語が、頭の中を支配した夏は思わず涎が垂れそうになって、

 「ええ、はい…、あたしがなっちゃんでございます……」

 よっこいせと席を立った。
 おばあちゃんみたいだ……周りはそう思った。

 このとき、夏と蕪木先輩の間に、周りにいた者たちは確かに見た、陽の当たる縁側を。





 「なっちゃん、ちょっとこっちいい?」
 「はい、はい、行きますとも……」

 やがてわんことおばあちゃんは、共にどこかへ向かっていきましたとさ。

 めでたしめでたし(じゃない)。

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