Affair.1『女王誕生?』








 夏はこの世で、運動というものがとにかく苦手だった。
 しかも本日は、体力テストだ。


 握力を測った時点で息が切れてきた。
 ちなみに、右手が15s、左手が13s。
 得点は非常に低い、なぜこれを測るだけで息が切れたのかは、夏にもよくわからない。

 「かんきっちゃん、顔色悪いよ……?」
 クラスメートの女子はだんだんと、夏を心配し始めた。


 次に上体起こし。
 いつ死んでもおかしくないような状態の体を、懸命に7回起こしてから、

 ぱたっ…

 夏は力尽きた。

 「かんきっちゃん!?」
 「は、吐く……」














 体育の時間は始まって間もなかったが、夏は保健室でお世話になることとなった。

 「日向さん、気分はどう?」
 保健医の絵に描いたような美人先生、奈美ちゃん先生が心配そうな声を掛けてくる。

 「骨髄が魂となって口から出そうです……」
 「それはいけないわ、ゆっくり休んでね?」
 しかも奈美ちゃん先生は、優しかった。


 (ううう、奈美ちゃん先生優しいな、あたしが男だったら絶対陰から見守る……)
 未だ顔面蒼白の夏だが、保健室のベッドにてホロリとした。
 枕の傍らには洗面器が置かれている。
 カーテンが引かれてあり、保健室のベッドは固いけれど静かでなかなか居心地がいい。

 奈美ちゃん先生の優しさや、ベッドの心地よさが相俟って夏はうとうとしかけた。



 そこへ、

 「奈美ちゃん先生〜!」

 静寂を切り裂く、明るい声が響いた。






 (うわあ、ものすごくうるさいけどこの声は、蕪木先輩…!)
 夏はなぜかすぐさま布団に潜り込んだ。
 大好きな先輩の声に、心臓がドキドキしてきて顔面蒼白はどこへやら。

 「蕪木くん、授業はどうしたの?」
 奈美ちゃん先生は少し、夏の時とは違うトーンの声を掛け、

 「俺、奈美ちゃん先生に会いたくて…」

 と、蕪木が告げた直後に、

 カタンッ…

 何かが床へと落ちた。


 (傘か!)
 夏は確信した。







 「蕪木くん、今ね、具合が悪くて休んでいる子がいるの。静かにしなさい?」
 奈美ちゃん先生の、諭すような声が聞こえてくる。

 すると、

 「いいじゃん、先生…、いつもみたいに俺とエッチなことしようよ……」

 ギッ…

 おそらく、というか確実に、蕪木は奈美ちゃん先生へと迫ったのである。

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