Affair.6『堂々姦淫?』







 ふっと、奏多の纏っている雰囲気が変わったのを、夏は見逃さなかった。
 何度も彼が豹変する様を見てきたが故の賜物だった。




 「あのさあ、その子、俺の女王様なんだよね。だから俺は護衛する義務があんの」
 「はぁあ?」
 にっこりと笑った奏多はいきなり、夏の髪を掴もうとしていた女子の髪を片手で鷲掴みにした。

 「いい痛っ!?痛いっ!離して!」
 「だってさっきなっちゃんに同じことやろうとしてたじゃん。てことは自分がされても平気なんでしょ?」
 思い切り髪を掴み、引っ張る奏多はじつに楽しそうに笑っている。
 相手があからさまに痛がっているからだと思われる。

 「あはは!お前髪きったねぇな!指ぜんっぜん通らねぇし、なっちゃんのとは大違い!」
 痛がる女子生徒の髪をゆびでも掴んで引っ張り、さらに痛がらせた奏多は今度は大声で笑った。
 こんな雰囲気の奏多を夏以外は誰も見たことがないので、たちまち空気は緊迫してくる。




 「返してくれる?なっちゃんの鞄」
 不敵に微笑んだ奏多は未だ女子生徒の髪を掴んだまま、ひょいと片手を出してはっきりと口にした。

 「今すぐ返さねぇとこいつの頭そこらじゅうに叩きつけて割るけど」







 やりかねないよ……と思った夏は、さらなる恐怖に駆られることもなく。
 普通に、ときめいてしまっていた。
 なぜなら蕪木先輩は、究極のアホでさえなければ藤堂を軽く凌駕する美形男子だからだ。


 「つうか、けっこう多いね?」
 微動だにできなくなっている女子たちの人数を、人差し指を回して数えていった奏多は、余裕綽々で衝撃の言葉を放った。
 髪を掴まれたまま離してもらえない子は痛みに身を捩っている。

 「全員痛い目に遭わせたら面白そう……まあ、女だから手加減はしてやろうかな」










 ドMじゃなかったのかよ!
 と、夏はツッコミはしなかった、心の中でもちっとも。
 ようやくそっち系の発言が聞けたと、むしろこの点に於いては清々しいくらいだった。
 途中から呼び方が「女王様」ではなく「なっちゃん」になっていることも、しっかりと認識できていたならときめきは倍増だったろうに。



 そもそもの種を蒔いたのは、現在牙を剥きかけている麗しき野獣なのだけど。
 きちんと回収にきてくれたということで、結果オーライ、なのか?










 ―つづく―

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