書架に隠れて戯れる












 (あ、今日は会えた……珍しい、平日なのに……)
 私の日課は、大学の帰りや講義のない時間等に、近くの図書館へ寄ることだ。
 地域ではなかなか大きな図書館で、書架はいくつも立ち並び読みたいと思っていた本は必ず借りられるくらいに充実している、私はここが大好きな場所だった。
 おまけに、ここに来るには目的が二つある、一つは、官能的な書籍を借りること。
 人にはそれぞれ嗜好があると思うが、私はアダルトビテオよりも圧倒的に官能小説に興奮するタイプだった。
 脳内で自分なりに映像化してゆく過程にも、興奮する。
 借りて帰った本はもちろん、読みながらエッチな気分になって、オナニーに使わせてもらっている。

 もう一つの目的は、たまにこの図書館で見かける同い年くらいの男の子をこっそり眺めることだった。
 運よく見かけることができた日は、ずっと幸せな気分でいられる。
 本を読んでいると、伏せた睫毛が影を作って、見惚れてしまわずにはいられないほど綺麗な男の子だ。
 これは恋なのだろうと気づいているけれど、あのくらいかっこよければ彼女は当然いるだろうと、気持ちは憧れに留めている。



 (今日はラッキーだな……)
 と思いながら私は、しばらく料理のレシピ本が並ぶ棚の隙間から、彼を眺めていた。
 閲覧席はいくつも空いており、彼の放つ美しいオーラがなんだか哀愁を帯びて憂いすら含んでいるように見える。
 今日の図書館は本当に空いている、下手をすれば私と彼しかいないのではないかという錯覚に陥ってしまうくらいに。

 特にレシピ本を借りようと思っていない私は、うっとりと溜め息を吐き、彼を眺められなくなってしまう目的のコーナーへと渋々向かった。
 今日は、年の離れた男女が姦淫を重ね、次第にその行為はアブノーマルになってゆく……という内容の作品を目当てに訪れている。
 フランスで映画化もされた作品のようで、ネットでの口コミを見て興味を持った。
 映画では表現しきれないほど、原作の描写が官能的らしいのだ。

 私はあまり聞いたことのないその作品の、作家の名前を探しながら、書架が作り出す簡単な迷路を歩いていった。
 図書館のなかはとても静かで、現実とは切り離されているみたいな雰囲気も好きだ、そんな心落ち着く場所で、探しているのがオナニーに使う官能小説なのだという後ろめたい現実味も大好きだ。

 (あ、あった)
 やはりここに来ればお目当ての本に出会ると感心しつつ、私は比較的すぐに発見することができたその作品を手に取った。
 ドキドキしながら、官能的なシーンの描写が自分好みなのか、確かめるべく私はページをめくっていった。

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