邪魔な焦がれ人
それからは、私はセックスの最中に声を我慢しなくてもよくなった。彼は好き放題やって抱いてくる、だんだんとやり方は荒々しくなる。
念のため、男に電話を掛けてみたけれど、すでに解約されてしまっていて繋がらなかった。どうして、男の電話番号を知っているのだろうとふと考えた私は、わざわざ自分から聞いたのだということを思い出す。結局、電話は一度も繋がることはなかったにしても、私は男とどこかで関係を持ちたがっていた。
だって、彼を見つめる表情が、いつもとても美しくて見惚れてしまったから。
携帯電話会社からの封筒が届いたあとは、男宛の手紙はいっさい届かなくなった。彼は最後に届いた封書を、開けることもせず、無造作にゴミ箱へ捨てた。
自分のことをずっと好きでいてくれた幼馴染み宛の手紙を、ぞんざいに捨てられる彼を何とも残酷なひとだと思った。
私は出勤の際も、買い物に出掛ける際も、隣人にはまだ会ったことがない。そもそも隣の家には、人が住んでいる気配がまったくない。庭は荒れ放題で、生活音はいつまで経っても聞こえてこない。
彼と住む家の庭は、殺風景なまんまだ。
一度、彼に男のことを真剣に話したことがある。じつは怪我を負っていたこと、あのあと大丈夫だったのか、勇気を出して尋ねてみた。
彼は曖昧な返事でその場を取り繕い、私はますます男のことが心配になった。
そんなやりとりを朝に交わした日の晩、彼はわざとらしく寝室のドアを開けて、私が風呂から上がる頃、電話で楽しそうに話をしていた。
「治ったんだ、なら良かった。ほんと、あいつが心配してるからさ」
男と話している、ふうを装っているようにしか見えなかった。新しい番号を知っているなら教えてほしいと願い出ても、取り合ってはくれないだろう。
「うん……俺たちは上手くやってるよ」
彼は落ち着いた口調で、あの男ならきっと気にもしないと思われることを、わざわざ教えてあげた。私は彼の声を聞きながらふっと、庭を見やる。
最近、カラスがよく、飛んでくるようになった。一見したところ、何にもない庭なのに。
月明かりにうっすらと照らし出された庭は青白く、いつだったか、彼にキスをしようとしたときの男の顔を思い出す。
おんなじ色をしていた、美しすぎる、蒼白だった。
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