邪魔な焦がれ人
淫音と、リップ音が響く。
私は無我夢中になって、男と舌を絡める。
これっぽっちも愛しあっていない交わりに、愛おしさを覚えてしまっている。私は男になじられたい、下品に淫れて果てしなくみじめな気分にさせてほしい。
これが、嘘偽りのない自分だった。ほんとうの自分というものを暴き出す男の荒々しさに、私はすでに支配されていた。
「ん…っっ!」
絶頂を得ると舌を甘噛みされ、最奥を突かれながら潮吹きをしていた。氷がところどころで溶けゆく床に、びちゃびちゃといやらしい体液が飛び散る。少し抜いた男は腰を掴んだまま、噛んだ舌を引っ張った。
「汚ねえな、お漏らしか?」
ヌグヌグと膣を擦り、男はさらなるキスマークや歯形を肌につけてゆく。
また、彼に怒られはしないかと気掛かりで仕方ない私をよそに、男はピストンを過激にさせた。
「あ…っ!いい…っ、気持ちっ…いいっ、あっ…あんんっっ!」
ガツガツと床に躰がぶつかり、髪を乱す私は男のシャツを掴む。怪我をしていようとも、危うい表情は残酷なまでに美しい。
心の在処がわからない、ただひたすらにすべて気持ちがいい。
「そういう素直な言葉、甘ったるい声でもっとあいつに言ってやりなよ」
首筋に噛みついた男は皮肉めいて笑い、私を強く抱きしめた。
「俺はいなくなっちゃうから……」
意識をどこかへ預けた私が聞いた、男の最後の言葉。
喜びにも、悲しみにも満ちた声色で、確かに聞こえた、今でも耳に残っている。
キスの痕や歯形は日を追うごとに薄らいでも、はっきりと聞こえた言葉は濃く反芻されることとなる。
男は言葉通りその日の夜、忽然と姿を消した。
相も変わらず夜に私を抱いた彼は、増えたキスマークや歯形について何も咎めることはなかった。
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