邪魔な焦がれ人
最終的には精液が透き通るまで中出しをされてしまった私は、彼が帰ってくる前に一人でシャワーを浴びた。
赤黒く残るキスの痕は、洗い流すことができない。肌を擦ってみても、痛いだけで、私は途方に暮れた。
あんなにも感じてしまったことに、罪悪感を覚える。男はもしかしたら、彼が残す前に自分を残そうとしているのかもしれない。何の責任もなく、悔しさから、やみくもに。
流された自分だけに過失があるような、やるせない思いが取り巻く空気をさらに重くする。
余韻など微塵もなく、涙は止まらず、私は男が残した精液を必死で掻き出した。
その日の夜、仕事から帰ってきた彼はベッドに入ったあと、いつものように私を抱いた。
私は内心では、消すことのできなかった無数のキスマークに怯えていた。少し脱がされただけで目につくほど、肌には男に犯された形跡がくっきりと残っている。
ところが、彼はそれについてはいっさい言及することなく、私とのセックスを楽しんだ。
昼間の出来事は夢だったのではないかという錯覚を抱かせる彼の優しさに、心が痛んだ。
「んっ…あっんっ、んん…っ」
隣の部屋を気にして口をつぐもうとする私に、
「我慢しなくていいのに」
と、彼は悪戯っぽく笑って言った。
どこまでも何も、気にしていないように見える。
私は一度、ソファでうたた寝をしている彼に、あの男がキスをしようとかがんだところを目撃してしまったことがある。
くちびるが触れあう手前で思いとどまった男の姿は、健気でいじらしく、私と違って美しかった。月光に照らされた薄暗い部屋のなか、目元にうっすらと涙が煌めき、魅了されるしかなかった。
眠っていた彼はあの美しさを見ることができなかった。純粋に、とても残念なことだと私は思ってしまった。
もっと怒り狂い嫉妬をすべきだとわかってはいる、私がいるのにおかしなことだと彼を責め立てるべきだと、わかってはいる。
わかっていながらもなかなかできないのは、男が恐ろしいほどに美しすぎるからだ。
[ 63/92 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]
戻る