※※第369話:Forever(&Rose)
「何をなさるんですか!」
驚いたナナは力いっぱい、薔を引き離そうとした。
彼に対して最も罪深い自分に、彼が触れることを許せなかった。
「何って、キスに決まってんだろ?」
恐ろしいほど落ち着いて答えた薔はナナを放すことなく、腕を掴んで引き寄せた。
綺麗な瞳にはやはり、光りが宿っていないように見えた。
「止めてください! キスなんて駄目です!」
必死で両手を伸ばしナナは抵抗をするものの、腕は掴まれたらおしまいだった。
捕らえられて、抱き寄せられた。
「いや……っ!」
顔を逸らしたナナは、顎を掴まれ向きを変えられる。
視線が交わると、好きな気持ちが溢れ出してどうしようもなく泣きたくなった。
向き合わせると薔は無理矢理に彼女のくちびるを奪った。
「ん……っ、ん……」
抱きしめながらキスをされ、舌を入れられたナナは気持ちよくなってしまう。
舌は吸われて、伸ばされ、なめらかに絡められていった。
抱きあっていると、鼓動は高鳴った。
大好きな人に抱きしめられると、躰は正直に反応してしまう。
ちゅっ……ちゅくっ、……ちゅぷっ……
艶めいて重なる舌と舌が、触れ合うくちびる同士が、いやらしい音を立てている。
混ざりあう吐息がくちびるをさらに熱くさせた。
「ん……っ、や……っ、止めて……ください……っ、薔……っ、……ん……っ」
頬は火照ってゆくなかでもナナは何とか理性を引き寄せ、彼を拒もうとした。
このままキスを続けられたら、本能のままに乱れてしまいそうで怖かった。
しかも、本音では彼を一切拒みたくないせいで、本気でキスを拒むことすら怖かった。
怖くても、躰は濡れてゆくばかりだった。
別れを告げたのに、自分以外の女性と幸せになってほしいのに、キスをされて気持ちよくなっている自分は何てはしたないのだろうと思った。
引き離そうとした彼女の腕を強く掴んで制止をすると、薔は構わずにキスを続けた。
「ん……っ、ん……っん、んう……っ、ん……っ」
涙が滲むナナは腰が砕けて倒れてしまいそうで、愉悦に囚われ呼吸が困難になる。
息の根ごと止められそうなキスで頭がくらくらして、判断能力が鈍ってゆく。
抱きしめられる躰はビクビクと震えて、キスで感じていることはどうやっても隠せなかった。
それでも、力が抜けた全身でか弱く藻掻き、ナナは彼の腕のなかから逃げようとしていた。
薔は彼女の力をもっと奪うように、背中や腰をゆっくりと愛撫して官能を刺激する。
ナナの背筋は甘くなってゾクゾクと痺れる。
「ん……っ、だめ……っ、……っん、薔っ……お願い……っ、止めて……っ、ん……っ、止めてっ……」
舌を絡められる合間にナナはまだ抵抗を試みていた。
彼を穢したくないという思いで、これ以上を阻止しようとしていた。
「記憶が戻った途端にここまで拒絶されるとは思わなかったな……」
ふと、くちびるを放した薔は自虐気味に笑って言った。
今は、彼は絶望的な世界を見ていた、涙ぐむナナだけを見ていた。
「でも好都合だ、どうせなら泣き喚けよ」
彼女の腕を掴んだまま、薔は寝室へと向かう。
「待って……! 薔……っ、放してっ……! お願い……っ!」
掴まれた手を放そうとしても、びくともしなかった。
泣きながら声を上げるナナは、結果的に彼の命令に従っていた。
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