※※第355話:Make Love(&Gratification).215
竜紀が消えたあとの床には、白い薔薇の花びらが一枚落ちていた。
しかしそれはもとが白だったのか確証が持てないほど、枯れていた。
「共犯者なら、真実を忘れる必要はねぇだろ。お前はナナちゃんの優しさを利用して、騙しただけだろ?」
かがんだ夕月は花びらを摘まみ上げようとしてから、止めた。
これだけ枯れていたら、ばらばらに崩れ落ちるに決まっている。
悪い予兆を自ら招くことは止めておいた。
遠くから大音量で、音楽が流れてくる。
薔はもうじき、彼女のもとへ帰れるだろう。
―――――――…
明日は月曜日で仕事が休みの真依のもとへ、一通のメッセージが届いていた。
“明日はデートだよね?
どこで待ち合わせする?”
送り主は無論、屡薇である。
「はあ?デートの約束なんかしてないし。」
内容を読んでみた真依は憤慨した。
約束がまだならまず、デートの伺いを立ててくるのが一般的なお誘いだろう。
「まあ、行ってあげるけどさ……屡薇くんが行くのに苦労しそうな待ち合わせ場所ってどこだろう?」
ぶつくさ言いながらも行ってはあげるらしい真依は、「待ち合わせに彼氏だけが苦労する場所」で検索をかけてみたがピンと来るものがヒットしなかった。
時間に遅れてもいけないので、無難な場所にしておくのがあとあと自分のためにもなるかと。
「“とりあえず迎えに来て?”と。」
待ち合わせ場所を指定するのが億劫になってきた真依は、迎えに来てとせがむのが妥当に思えたためそうしておいた。
すると今何をしているのか、速攻で返事が返ってきた。
“行くわ”
とだけ。
屡薇はおそらく、迎えに来てと言われて嬉しかったのだと思われる。
「何時に来るの!?」
まさか早朝に来て寝込みを襲ったりしないよね!?と思った真依は、彼が萎えるような変なジャージを着て今夜は眠ろうと決心した。
「いいなあ、カップル……」
じつは休憩時間が始めから一緒だった綾瀬は、満面の笑みだった。
自分は萌との恋に苦戦しているので、純粋に、周りのカップルが羨ましい。
辿り着くのが苦労しそうな場所で待ち合わせ、してみたい。
お化け屋敷の真ん中とか(従業員に迷惑がかかるやつ)、いかにも遭難しそうな雪山でとか(全体的に迷惑がかかるやつ)。
「前日にいきなり休日を台無しにされても?」
「当日になれば、大好きな屡薇とのロマンティックなデートじゃないですか……」
「まあ、うん……」
強がって見せた真依は結局、素直にデートはロマンティックになるだろうと認めた。
でもちょっと、「ロマンチック」と言って欲しかった気がしなくもない。
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