※※第350話:Make Love(&Aphrodisiac).211















 如月の迎えではなく夕月の迎えで、目的地へと向かうことになっていた。
 おそらく如月は運転手を買って出ただろうが、運転より早くプロポーズをして来いと叱咤激励されたのだと思われる。



 「本物の夕月さんですね!」
 「……当たり前だろ。」
 ナナは夕月との再会に感動し、本物という言い分けが桜葉小説の影響なのかと最初思った薔はじっと彼女を見た。
 下手なことは言うなよ?という戒めが、麗しい眼差しには込められている。

 「なぜにそんなにも、わたしを見つめてらっしゃるんですか!?ドキドキするので止めてくださいよ!」
 「いいから読み取れ。」
 「えええええ!?何をですか!?」
 夕月とのなかなか久しぶりの再会にも拘わらず彼は一心に彼女を見つめてくるため、ナナはドキドキあたふたした。
 残念ながら、彼の視線に射抜かれることは多分にできても読み取れる余裕はない。

 運転席からふたりの様子を見ていた夕月はただ、楽しそうに笑っただけだった。
 ゾーラ先生や屡薇が苦戦している中、夕月は唯一、ナイスガイ鎧としてこけしちゃん小説に登場してもいっさい邪険にされない存在である。
 そんな夕月ならこけしちゃん小説のことも笑って許してくれそうだが、とにかくヒロインは口を滑らせないでおこう。
 彼氏のこけしちゃん小説に対する嫌悪感がますます募ってしまうから。




 特に変わったことをするでもなく、夕食を一緒に食べるためにファミレスへ向かった。
 夕月はこういうとき、容易に連れては行けそうな高級レストランでなく敢えてファミリーレストランを選ぶのには何か理由があるのではないかと勘ぐってしまってから、ナナは考えるのを止めた。
 それは野暮な考えと言うものだった、夕月は単にファミレスのほうが気軽に会話ができるだろうと配慮をしてくれただけに過ぎない。
 きっとそうだと、心に言い聞かせた。



 そしてナナはいつもこけしちゃん小説を楽しませてもらっているわりには、本物の薔と夕月カップリングで妄想をしたりはしなかった。
 あくまでもノートはノート、現実は現実である。
 まだまだだなぁぁ……と、こけしちゃんはニコニコで呆れながらもめっちゃ羨ましがりそうなシチュエーションとなっている。




 「わたし、薔と夕月さんを見ているだけで幸せです……」
 「………………。」
 眼福すぎて純粋に惚れ惚れするナナと、なぜわざわざ組み合わせたのかが若干疑問で一瞬押し黙った薔は並んで後部座席に座っていた。
 ナナはもうちょっと言葉選びを詳しくして、彼氏を安心させてあげよう、せっかくの再会なのだから。

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