※※第359話:Make Love(&Acme).218







 「言う事聞きたくねぇのか?」
 狡い言い方で、薔は聞き返した。
 さりげなく彼女を抱きしめてくれてはいる。
 「そうじゃ……ないんですけど……」
 おもむろに顔を上げたナナは何と返したらいいのかわからず困惑した。
 彼の言うことを聞きたくないのとはまったく別の感情で、従順さの在処が違っていた、彼女はただキスをして欲しいだけで、でも今は彼の言いつけ通りに従うことはできなかった。



 「キスして欲しいだけ?」
 おでことおでこが触れあう距離でくすくすと笑い、薔は核心を突くように聞き返した。
 「はい……」
 彼に言葉にしてもらえて安堵したナナは、うっとりとした眼差しで応える。
 でもこれは罠だった。

 「キスだけでいいんだな?」
 不敵に付け加えると、彼はキスを再開した。
 キスだけでは当然足りないことを知っていて、わざと確認をしたのだった。



 「っん…っ、ん……」
 徐々に深くされてゆくキスを堪能している段階では、ナナは自分が迂闊だったことに気づけていない。
 何度か、艶かしい動きでくちびるを重ねると、容易くくちびるを抉じ開けられ舌を入れられた。
 無理矢理口を開けられても、ナナは喜んで受け入れる。

 こんなふうに濃厚なキスをして欲しくて堪らずにいた。

 リビングにはリップ音が響き、ぞくぞくする聴覚も心地よくなる。
 音でも愛撫される彼女は敏感になり、濡れてゆく。
 キスだけでいいのかと確認されているのに、もっと先に向けて下拵えをしてしまう。


 「んん…っっ、」
 舌を優しく吸われたナナは感じてふるえ、彼に抱きついた。
 腰を片手で抱き返す薔はゆっくりと、髪を梳くように撫でてもいる。
 いい匂いにも心が痺れて、ナナは夢中になって舌を伸ばした。
 もっと激しくなじられたいという危ない気分が、沸き上がる。

 「んっ…はっ、あ…っ、」
 キスだけでアソコがじんじんして切なくなっている彼女から、薔はくちびるを放していった。
 「これで満足か?」
 欲しがった通りキスはしてあげたため、彼はこれで終わらせる素振りを見せた。


 「え…っ!?……やです…っ!」
 抱きついて離さないように力を込めると、ナナはばか正直に懇願した。
 だったら最初から、キスだけでは到底足りなくなるとはっきり気づいておけば良かったものを。
 できない状態にさせられていたから、仕方がないけれど。

 「エッチしたいですっ……」
 疼く躰は、冷ますことでは鎮まらないのだ。
 とことん、熱を与えてしまわないと。

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