※※第359話:Make Love(&Acme).218
ナナはキスをされてから、ずっとドキドキしていた。
不意討ちというのがまた狡猾で、もっとして欲しくて焦れる。
けれど薔は夕食の後片付けを終えてからも寛ぎの時間を優先して、不意討ちでキスをしてくれそうな気配はなかった。
気配がない上でやるからこその不意討ちなのだろうけど。
また修学旅行に向けての試練なのかと、勘繰るナナはやけにそわそわしている。
薔はそれをちゃんとわかっているから、敢えてキスをしない、まだ。
(こけしちゃん、夕月さんが先生役って言ってたけど……夕月さんが先生だとどうなるんだろう?)
苦肉の策として、ナナは気を逸らすことにした。
夕月が先生だとじつに様になっていそうだが、こけしちゃんの彼氏ことゾーラ先生は面目がなくなってしまいそうな勢いだ。
夕月が先生だったら薔は何だかんだで言うことを聞きそうなので、それはとても可愛らしかった。
こけしちゃんはそういう健全な関係として描かないだろうが、夕月の言うことをちゃんと聞く薔は可愛らしくて早く見たい気がした。
「……おい、寝たのか?」
「わああ!かっこいいお声でびっくりさせるのがお上手!」
今にも涎を垂らしそうな夢見心地になっている彼女へと、薔はいきなり声を掛けた。
びっくりしたナナは涎を垂らしている場合ではなくなる。
ついでに気を逸らしている場合でもなくなる。
「早く寝たいなら先に風呂入って来いよ。」
薔は焦れている彼女の心情をわかっておきながら、意地の悪い提案をした。
微笑みは優しくとも、言っている内容が意地悪である。
「やです。」
かなりうずうずしてきたナナは正直に、早く寝るのも先にお風呂へ入るのも嫌な旨を伝えた。
「俺の言う事が聞けねぇのか?」
余裕綽々の雰囲気で確認すると、薔は彼女が何か答える前にくちびるを奪った。
ここで不意討ちのキスが来るとは思ってもみず(だから不意討ち)、驚いたナナの体内を歓喜が這い上がる。
「これで、言う事聞けそうか?」
くちびるを放して頬をそっと撫でると、彼は面白そうに笑った。
要するに、待っていたキスをしてやったんだから言う事聞けという話である。
どう考えても、大人しく従わせる気はなさそうな魅惑的なキスだった。
「もっとしてくださいっ……!」
切実にせがんだナナはぎゅっと彼に抱きついた。
そうせずにはいられない魅力で、彼は彼女を引き寄せていたのだった。
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