※※第359話:Make Love(&Acme).218
しゅうがく‐りょこう【修学旅行】
学校行事の一つ。児童・生徒らに日常経験しない自然・文化などを見聞学習させるために教職員が引率して行う宿泊旅行。
帰宅してからついにナナは、辞書を引いてみた。
全容はさっぱり掴めないものの、日常経験しない、というのが目的だったら確かにエッチはできなくなる。
(こけしちゃんの小説を待つしかないのか……)
と、溜め息をついて、辞書はそっと閉じた。
こけしちゃんの小説を参考にした場合はエッチは可能となる。
「ナナ?味見。」
「かしこまりました!」
ただいま彼女は勉強中で、夕食を作っていた薔は味見をするよう呼び寄せた。
たまにはこういう甘い命令も良い、全力で従いたくなる。
すっくと立ったナナはキッチンへと向かい、口許に差し出された唐揚げを食べた(唐揚げは味見ではなくつまみ食いでは?)。
熱々ではなくちゃんと食べやすいようにしてくれてあり、
「美味しいーっ!」
ナナは満面の笑みを返した。
「言われた範囲は終わりそうか?」
思わず口にするほど美味しいのだと確認できた薔は微笑むと、あたまをよしよしした。
敬語にしたら執事に思えなくもない。
「もう終わりましたよ?」
ナナは得意げに笑った、辞書で修学旅行について引けるくらいの余裕もあったのだ。
「そっか、偉いな……」
頭から手を滑り落とすと、いきなり、薔は彼女の肩を掴んだ。
そのまま引き寄せて、キスをした。
廊下ではしてもらえなかったキスを、他に誰も見ていないからナナはしてもらえた。
不意討ちのキスは、優しくても圧倒的で、キスの感覚だけでくちびるを支配する。
「――――片付けたらご飯にしような?」
そっとくちびるを放し、薔は提案した。
片付けとはもちろん、勉強道具のことを示している。
あたまがぼーっとするナナは素直に頷き、リビングにいったん戻った。
でも物事を上手く考えられなくて、手元が狂ったりした。
その様子を面白そうに眺めている薔のもとへ、わんこたちが寄ってゆく。
一緒にいられれば、幸せだった。
彼に出会わなければ何とも思えずにいた出来事が、特別になる。
彼女に出会わなければ忘れたままでいた優しさを、思い出す。
ナナは彼と一緒にいられる時間が幸せで、じつはあっという間に過ぎ去ってしまうことを知らなかった。
実感を持てない、といったほうが正しいのかもしれない。
薔はすでに覚悟をしていたから、彼女と一緒にいられる幸福を味わい、同時に人知れず苦悩していた、さいごには狂って壊れてしまうほどに。
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