※第6話:Game(+Foreplay).4




 (おぉ〜!なんだか、懐かしくもめちゃくちゃいい匂いだよ〜!)
 ナナは薔のマンションのリビングで、変態度が増した。
「花子ちゃんは、どちらにいらっしゃるんですか?」
「花子なら今、俺のベッドで寝ている。」
 ぎゃあ!!
 相手ワンちゃんなのに、もはや官能小説だよ!

「おい、」
 ………………はい?
「空のあたま抱えてんじゃねぇよ、はやくそこへ行け。」

 ……………………ひどい。





「おわぁ!これが“あいらんどきっちん”というやつですかぁ!?」
 ナナははじめて、対面式キッチンに立っていた。
「それより、はやくやれよ。」
 え?
「なにを、ですか?」
「俺の質問を遡れば、おのずと答えは導かれるだろーが。」

 うーん。
 ナナは考え、
 あ!
 ひらめいた。

「かんびょ」
「料理だ。」

 ………………おおお(泣)

「目玉焼き程度なら、焼けるよな?」
「すみません、わたし、」
「なんだ?」
「いくらヴァンパイアでも、目玉なんて焼いたこともないですよ。」



 スッ―――――――…


 薔が近づいた。



 (えええ!?いまの発言、なにか間違ってたの!?)
 根本的なものが、ね。

 身構えるナナをすり抜け、薔は引き出しから、ナイフ(※およそ包丁)を取り出した。

 (ついに、殺られる瞬間がやってきたのか――――――っ!?)
 死なないんだけど、ね。


 あわわわわわわ!!

 口をパクパクさせているナナのまえで、薔はほかにまな板とキャベツを取り出し、ナナの左ななめまえに置いた。
「とりあえず見せてやる、よく見とけ。」
「はい?」
 唖然とするナナのとなりで、薔はキャベツを丁寧に洗い、(少しだけだけど)見事に千に切り分けた。



「すごっ!!この切れたキャベツ、市販のより細いですよ!なんですか?これは!」
「キャベツというものだ。」
 い、いや、それ、一言まえくらいにわたくし、申したんですけど。
「短冊でもいーから、とにかくやれ。」
 たんざくって、なんだ?
 辞書の登場を差し押さえるべく、ナナは無言で取りかかったのだが、

 危なっかしさにかけては、天下一品であった。




 (どーしよう!ナイフがうまく動かせないんだけど、)
「おい、」
 ………………はい?
「その下に敷いてるモンは、いわばお前の同類だ。丁寧に扱え。」
 なんのことだろう?
 下に敷いてるモン=まな板、であった。
 知らないナナは、むしろ幸せであった。


 ナナが本当に、手こずるに手こずっていたとき、


 フワリ


 ナナはうしろから、抱きしめられる状態になっていた。

 (ええ――――っ!?絞め殺されるのかな!?)
 ロマンチックのかけらもないナナの手を覆うように動かし、
「お前はありとあらゆる筋肉を、再起不能なまでにほぐすべきだな。」
 と、呟きながら、薔はナナに、キャベツの切り方を手ほどきで教えていた。

 (あれ?この雰囲気、)
 おそろしいほどに、めおと漫才みたい!
 漫才じゃないよ?片方はね。


 (それより、387歳のわたしより15歳のこのひとのほうがすべてにおいて果てしなく上手なんだけど、わたしの人生はいったい、どこがいけなかったんだろう?)

「おい、」
 うしろからでも、声をかけるのは、いきないです。

「はいい!?」
 ナイフを持ち合っているので、ひかえめにナナが驚いたとき、

「病人の血液は、何か影響あんのか?」
 と、聞かれた。

「それは大丈夫であります!常人が病人の場合では、たまに食中毒を起こしますが、上玉はいかなる場合でも、大丈夫であります!」
 ナナがまるで自衛官のように、かしこまって答えると、
「ふーん、」


 サクッ


 えーとですね、薔はキャベツではなくて、自身の左手の、ゆびを切ったのですよ。

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