※第6話:Game(+Foreplay).4





「せんぱぁーい!」
 ナナと薔が登校すると、クラスメートはこぞって、薔に話しかけた。
「病院へは行かれました?」
「熱下がりました?」
「病名はなんだっ」
「おい、」
 …………はい?
「先輩などとほざいたやつは、どこのどいつだ?」

 ……ひぇぇぇぇぇえ!

 和やかなムード、台無しだよ!

「今名乗りを上げれば、許してやる。」


 それより、アナタ…………。
 クラスメートなんだから、声でどいつか判断してよ……………。
 そもそも、ここ、学びやなんだから、“どこの”はあまり必要ないよ………………。



「わ、わたくしであります!」
 勇気を出して名乗り出たのは、今は顔真っ青だけど、実はグラウンドに立てば小麦色の、野球少年・黒熊(くろくま)だった。
「逆に病院に送られてーのか?キサマは。」
 え?
 許してくださるというお話は、どこへお流れになったのでしょうか?


「次に先輩なんつー下っ端の位つけてみろ?バット折るぞ。」
 おわぁぁぁあ!
「で、ではわたくしどもは、あなたさまを何とお呼びすれば?」
「あー、現段階で俺相応の位はねーから、とりあえず名前に“さま”つけとけ。」
「…………はい!薔さま!」



 ナナは思った。

 (ここみんな、同い年だよね?)
 ……いったいここは、なんの帝国にのぼりつめてゆくんだ?




「あのぅ、薔さま、」
「なんだ?」
 手を合わせて薔を拝んでいた黒熊のとなりで、別の男子生徒が恐る恐る尋ねた。
「お熱、は?」
「39.5度だったが、どこぞやの万年空振りバカのおかげで、おそらく上がったな。」
 ………黒熊くん、かわいそすぎますよ?
 しかし案ずることなかれ、黒熊くんはMです!

「ぇぇぇぇぇえ!?どっちにしても高熱なんですけど、なんで登校してきたんですかぁ!?」
「しょせんバカのキサマにも、教えてやろう。」
 …………………え?

「いわゆるこれは、“パンデミック”だ。」
 ※パンデミックの意味をご存知でないお方は、申し訳ございませんが辞書を引いてください。



 ………バカです。
 あなたさまに色々聞いてしまった、ボクは本当にバカです。
 ………ていうか、お願いですから、帰って安静にしてらしてください(泣)







 朝のホームルームになりました。

「三咲、」
「は、はい?」
 担任の吉川は、挨拶のあとすぐにナナを教壇へ呼んだ。
「どうして昨日は、無断で早退したんだい?」
「え、えーと…………」
 ナナのあたまのなかで、様々な言い訳が飛び交っていたとき、

「そいつは昨日、この俺が連れ去ってやった。よって、それが理由だ。」

 ……………………え?

 席に堂々と座ったまま、薔はとんでもないことを言いだした。
 第一話でナナが香牙をつかっていたとき、至極もっともなことを言っていた彼は、今では次元の違いすぎることをさらりと言ってのけてみせた。



「しかし吉川程度のあたまでも理解できるだろーが、そいつは悪くねぇ。俺ももちろん悪くねぇから、俺達はなんもしてねーぞ?」

 ……ぇぇぇぇぇぇえ!?

「ちょっと待って!今スゴイこと聞いちゃったから先生は言いたいんだけど、暮中、お前は三咲が帰ってからも、高熱のなか授業を受けていたぞ!?」

 ………授業、受けてたの?

「吉川、キサマのその不格好にもほどがある耳に、たった一度の出番が来た。よく聞け。」

 ひどいことにしても、ふつうに言えないんですか!?


「俺には、“宇宙人説”がある。」


 …………ご存知、だったの?
 噂をしていた生徒たちは、冥界すら垣間見た。


「クソくだらねぇ説だが、想定してみろ。わかるか?」

 …………………はい?

「実にたやすいことだろーが。」

 はいぃぃぃぃぃぃい!?

「ぉぉおわぁ!今思い知ったけど、先生はお前を敵に回さなくて、本当によかったよ!ちょっとこないだ回しかけたけど、回しきらなくて本当によかった!思い知らせてくれて、ありがとう!」
「おい、」

 …………………はい?

「なに勝手にまわそうとしてんだ?逆にまわすぞ。」


 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!


「お願いだから、“敵に”をうえに掛けてください!」
「かける?」

 ど――――ぅしよう!
 ボケツ掘っちゃったよ――――――っ!





 ナナは思った。
 (“まわす”と“かける”って、すごい意味があるんだなぁ。とりあえずは辞書、だよね。)

[ 62/550 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る