第5話:Game(+Spread).3
「ちょうど40度あるわね。」
保健室の(美人)先生が、体温計を眺めて言った。
「ものすごい高熱なんだけど、なんでこの子はこうなっちゃったの?天変地異の前ぶれよ。」
……いや、わたしその天変地異の前ぶれ現象の原因知ってるんですけど、それをわたしに言わせられるのは、おそらくこのひとだけです。
ナナは、薔が横たわるベッドのとなりの椅子に、腰かけていた。
ちなみにすでに、指輪は装着済みです。
「三咲さんがこんなに想ってるんだから、自分の身体は大切にしてくれないとねぇ。」
「はい。」
…………………でぇっ!?
「あわぁ!わたくし今、なんにも言ってないですよ!」
…………………プッ。
「あははははは!」
「いや………、先生、笑ってないで、王とかに献上するかぜ薬持ってきてくださいよ………。」
「あっはっは!」
…………………ムカ。
(美人)先生は、薬品棚を開けようと、鍵を探した。
しかし、
「あれ?」
ゴソゴソとポケットを探り、
「あ、鍵、職員室だわ。」
今思い出したかのように言ったのだ。
「えぇえ!?この一大事に限って、なぜに鍵という7つ道具を、たずさえていないんですかぁ!?」
このセリフに必死で笑いをこらえ、
「とりに行ってくるから、ふたりきりで待っててね!」
と、いらぬウインクを残して、保健室から走り去った。
「ちょっと……………。」
チクタクチクタク
時計の音が響きます。
ドキドキドキドキ
ナナの鼓動も、上乗せされます。
「先生が“ふたりきり”とか言うから、イヤというほど緊張しちゃうんだけど…………!」
それよりなにより、病人をまえにしてなにを考えているんだ?わたしはもう!
「バカバカァ!」
今回二度目だが、ナナは自身のあたまをポコポコ叩いた。
「それより、先生やけに遅いんだけど。」
……………………。
「よし!いま、わたしにできることを考えよう。」
うーん。
「そうだ!」
ナナはポケットからハンカチをとり出し、
「応急処置として、これで冷やそう!」
そもそも、もっと早くに氷枕とか用意してあげてよ。
「さいわいなことに、このハンカチまだいっかいも使ってないし!」
立ち上がろうとした、瞬間、
フワッ
勢いあまったハンカチが(よく勢いあまるな)、ベッドのうえに舞い落ちた。ちょうど、薔の、美しき顔の横あたりに。
(おぉお!かぶさらなくてよかった!本当によかった!)
ナナがこころでホッと一息つき、ハンカチをとろうとした瞬間、
それは、音もなく、はじけ飛んでいった。
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