第5話:Game(+Spread).3
化学の先生は、横科(よこしな)といいます。
なんでこんな名字に生まれついちゃったのか、あだ名は“ヨコシマ”です。
彼は定年まであと5年なので、家族を養うのに必死です。
「あー、ここがこうなるとね、」
横科は、黒板をめいっぱいに使う癖がある。
(うわぁ。あの黒板カオスなんだけど、どうやって書き写せばいいの?)
生徒のほとんどは、そう思っていた。
「でね、つまりはね、」
振り向いた横科。
彼の目に映ったのは、若干(体勢が)ナナに傾いている、薔の姿であった。
ちなみにナナには、未だ教科書が届いていない。
「おぉえ―――――っ!?ちょっ、なんかすごいもの見ちゃったから、放っておけないよ、これ!」
横科はツカツカと歩き、薔の席の前に立った。
「どうしたんだ!?暮中、お前は発情期か!?」
「おい、」
……………はい?
「だれが目の前に立ってもいいと言った?」
えぇえ?
「いや、それより、キミはいったいどうしちゃったのかな?」
「キサマごときの脳ミソでは、計り知れねー何かが起きているのは、確かだ。」
………………ひどい。
あれれ?
なんなんだろうな?
ボク男性なんだけど、今日のこの子、妙に色っぽいよ?
こうしているとなんだか、まるで、
…――親子みたい――――……。
(いやぁ、ボクの遺伝子ではどこをどう頑張っても生まれてはこないけど、今日はキミを、ボクの息子に仕立てあげたい気分だよ!)
「おい、」
……………………は!!
「さっさと仕事しろ。切るぞ?そのクビ。」
息子がとんでもないこと言ってる―――――――っ!!
口をパクパクさせて、横科は教壇へ戻っていった。
授業は(おそらく)滞りなく、進んでいった。
(どうしよう?あの黒板、もはやチョークの絵画なんだけど、だれかツッコむひとはいないのかな?)
ナナをはじめとする、ほとんどの生徒がそう思っていたとき。
トサッ―――――…
事件は起きた。
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