第45話:Love(&Action!).36






 薄暗い林のなか。

 明らかに場違いな、洋館が佇んでいる。


 「これだけ平和なら、見張りとかいらないな。」
 明るく呟いたひとりのヴァンパイアこと・洋館の門番役は、のびのびと背伸びをした。


 ザッ――――――…

 その隣を、堂々とひとりの男が通り過ぎていった。


 (えええ!?いつの間に!?)
 びっくり仰天した門番役は、その男に駆け寄る。


 「ちょっと、君!ついさっきまで平和だと思えていたのに、なにしに来たの!?」
 「あ?」

 薄暗い中においても、眼差しの凄さはかなり確かだった。



 「…い、い、いや、なんでもないよ。人間かと思ったんだけど、どうやら仲間のようだね。悪かった。」
 たじろいだ門番役を無言で圧倒的に見下ろすと、そのひとは立派に門を通り抜け、屋敷へと向かっていきました。




 「うーん、雰囲気はほんと、人間みたいだったんだけどな。」
 首を傾げた門番役は、再び配置についたんだとさ。













 ギィ――――――…

 やはり軋むドアを開けると、中には薔薇の香りが漂っていた。

 ちゃんといくつもの、明かりは点いている。


 コツ…

 薔が足を踏み入れた瞬間、

 「ちょっと!なにお前、靴ぐらい脱げよ!」
 奥の部屋から、ひとりのオトコが顔を出した。

 「土足で踏み入れてんのは、どっちだ?」
 靴を脱ぐことなく、薔は入って来ちゃいましたんでね、

 「あああ!こいつ、あの人間じゃん!」

 という叫び声は階下に広がって、

 「えええええ!?ほんとに!?」

 ヴァンパイアのオトコどもが、集まってきました。



 「これは好都合だ。」
 「こないだは、世話になったな。」
 その中には、アダルとモンズグもいたんですね。
 周りに仲間がいるんで、余裕の笑みを改めて浮かべてますね。


 「ぇえ?てか、なんでそんなに色っぽいカッコしてるの?」
 「ギリギリなのが、なんかヘンな気分にさせるよ?男なのに。」
 さっき、キミたちの仲間が、シャツをちょっと引き裂いちゃってね。


 「しかし、これで無事に、儀式が執り行えるぞ!」
 「我々の伝統は、守られる!」
 「はやくとっ捕ま」


 ダンッッ――――――…!


 薔は左手を固め、側の壁に叩きつけた。




 オトコらは、一斉に黙り込む。

 壁にはいくつかの亀裂が入り、拳は壁にめり込んでいる。




 「ぐだぐだうるせぇな、」
 すこし伏せた表情は、窺うことができずにいたのだが、


 「儀式や伝統、つうのはな、己の筋を通してから語れ。」


 スッ――…

 やがて真っ直ぐに向けられた、切れるような眼差しは、

 それまでの静かな怒りすら呑み込んで、漆黒のなかにも燃え上がるかのような真紅を秘めていた。




 息をのんだオトコらのまえ、

 「キサマらのくだらねぇお遊びなん、知ったことか、」

 薔は鋭く力強く、告げたのでした。




 「俺が護(守)るのは、愛する女、ただひとりだ。」

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