第45話:Love(&Action!).36






 うえの騒ぎは優雅なので、地下室は至って静かだった。
 ろうそくがいくつかの、明かりを灯している。

 「ふぁあ…」
 退屈だと思っていたマネージャーは、大きな欠伸をしながら背筋を伸ばした。

 と同時に、

 「なにしてんだ?」

 はっきりと声を掛けられた。


 「……え?」
 目を見開いたマネージャーが振り向くと、


 「だらけてる暇あんなら、鍵をよこせ。」


 片手を出して見下ろして、一番の獲物のひとが立っていたんです。



 ……えええ!?



 「どうしてここまで来れ」
 「はやくしろ。」

 ぇえ?今ちょっと、最後まで言わせてほしかったよ?


 「大人しく渡すとでも、思うか!?」
 「あぁ。それしかキサマに、道はねーからな。」

 …なに!?こいつ!?

 「出すわけな」
 「出せるよな?」

 …え?

 マネージャーは、この組織のなかで、けっこう切れ者として有名だった。


 「どーした?早く、よこせよ。」



 ところが、その目つきだのなんだのには、どこをどうやっても敵いませんでした。




 チャリ――…

 マネージャーは黙って、薔に鍵を手渡す。


 やはり堂々と歩いて、鍵を差し込んだ薔でしたが、

 「………………、」

 鍵を回す瞬間に、中を見て瞳を深く開いた。


 「おい、」

 そして鉄格子の中へ眼差しを向けながら、後ろのマネージャーに問いました。



 「俺のナナは、どこだ?」






 「えっ?」
 マネージャーはビクッとなる。

 (こんなけっこう暗い中で、しかも何人も女の子いるのに、よくすぐにわかったね?おまけに、あれ?眼鏡?)
 その後、なんだか感心してしまった。


 錠は呆気なく、開かれました。



 「どこだ?言え。」
 扉が開いた直後、薔はマネージャーのシャツを掴み上げ、厳しい声で詰め寄った。

 「それだけは、言えない!」
 口を頑なに閉ざそうとしたマネージャーだったが、

 クイ――――…

 ふと、唇をこじ開け、細いゆびさきが口内に這い入ってきた。


 唖然とするマネージャーの牙を、ぷつりとゆびに刺すと、

 サァ――――…

 流れ込んできたのは、極上の鮮血。




 「はやく言えよ。」
 ひどく近くで問い詰められ、

 「あの、この建物の裏にある、ちょっとした林の中、歩いて10分ほどにあります、別館に…」
 血液によって火照りまくったマネージャーは、素直に答えた。



 ドサッ――――…

 薔が手を話した瞬間、

 「はぁ……ん、」
 ぐったりとマネージャーは床に倒れ込んだ。



 「桜葉!?」
 上が一段落したため素早く下りてきた醐留権は、開いた扉の向こう、倒れていたこけしちゃんにすぐさま駆け寄る。

 「大丈夫か!?」
 抱きかかえると、
 「うぅぅんぅ…」
 ちいさく声を零すこけしちゃんは、なんだか可愛くムニャムニャとしていた。


 ほっとした醐留権に、
 「ここの鍵だ。」
 薔は扉の鍵を預ける。


 そして、

 カチャ―――…

 眼鏡を外した。



 「そう言えば、三咲がいないな、」
 鍵をしまい、キョロキョロする醐留権に
 「桜葉は、大丈夫そうか?」
 問いかけた薔は、それでも前を見据えている。

 「あぁ。どうやら、眠っているようだ。」
 「そうか、」

 確かめた、直後。


 「此処はあんたに任せた。全員無事に、帰してやってくれ。」


 薔は螺旋階段に向かい、歩き出しました。



 「ひとりで大丈夫なのか?」
 「桜葉にはあんたがいねぇと、だめだろーが。」

 バリンッ…

 眼鏡は片手で、いとも簡単に粉々になって。



 「安心しろ。こっから先は、俺ひとりで十分だ。」



 鋭く力強く告げると、薔は階段を駆け上がっていった。









 「よし!私は少女たちの救出作業に、全力で取り掛かろう!」
 気合いを入れた醐留権は、こけしちゃんを抱え立ち上がる。


 「あれ?ここどこ?」
 気づくと全員が、目を覚ましていた。

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