※第44話:Love(&Thorn).35






 夜が明けて、次の日。

 午前11時ちょうどを、過ぎた頃。


 「そうなんだ!こけしちゃん!」
 テンション上がるナナは、こけしちゃんと長電話中だった。

 リビングは、快適だ。


 『ほんとねぇぇ、ゾーラ先生ぇのお母さまぁ、やさしいのぉ。』
 「それはほんっとに良かったよーっ!」

 電話の内容はというと、こけしちゃんのあのあとからの、詳しいご報告です。


 そのとき、

 『そぉぉだぁ、ナナちゃぁん、よかったら午後ぉ、ウチに遊びに来ないぃ?』

 おっとりとこけしちゃんが、お誘いしました。


 「えっ!?いいの!?」
 『うんぅ。午後ねぇ、ウチにはあたし一人になっちゃうのぉ。』
 つづけるこけしちゃんだが、
 「ぇえ!?それなら是非とも、醐留権先生を呼んでよ!」
 至極もっともか?の意見を、ナナは提案した。


 『じつはねぇ、ゾーラ先生ぇはもう誘ったんだけどぉ、こないだのお見合いの件で手続きがあってぇ、来れないんだってぇぇ。』
 「それは残念だねぇ。」

 電話越しに、ナナは肩を落とす。


 「こけしちゃん、お邪魔させていただきたいけど、わたしこけしちゃんのお家についてはまったく知らないんだよ。」
 『それもそうねぇぇ。じゃあぁ、学校の門にぃ、2時で待ち合わせしようぅ?』
 こけしちゃんの言う2時とは、もちろん14時のことである。


 「わかったよ!こけしちゃん!では、2時に学校でね!」
 『うんぅ。』

 テンション上がりまくったナナと、声色には出てないが同じ状態のこけしちゃんは、

 「気をつけて来てね!」
 『ナナちゃぁんもねぇぇ。』

 あつきこころで、電話を切った。









 (うわぁ!楽しみだ)
 「二時間以上も話してたな。」


 …うぎゃ!?


 「ぎゃあ!すみません!そういえばわたし、お勉強中でした!」
 「まぁな、」

 ナナさんは、なんとリビングで、薔にお勉強を教えてもらってたのです。
 その最中、こけしちゃんからお電話が掛かってきて、二時間以上も話し込んでいたようです。


 「すみません!せっかく教えてくださってたのに!」
 「別に、」



 ……………あれ?



 (どうなさったんだろう?このひとさっきから、わたしのこといっさい見ないよ?)




 …あああああ!

 きっと、怒ってらっしゃるんだよ!




 焦ったナナは、勢いよく薔に声を掛けた。

 「あ、あの!」
 「ん?」

 ……あれ?

 (ぇえ?怒ってらっしゃったら、この場合、“あ?”だよね?今確かに、“ん?”だったよね?)


 どういう、ことですか?




 いろんな考えを巡らすナナのまえ、花子がご主人さまに歩み寄った。


 「花子、」
 勉強に集中しているかのよう、ずっと俯いていた薔は、顔を上げ花子を見る。

 そのあたまをやさしく撫でながら、

 「ほんと花子は、かわいいな、」

 薔は言った。



 「花子なら、せっかく勉強を教えてやると言った俺を、二時間以上も電話で待たせたりしねーもんな。」







 …………………え?


 「いくら親友からとは言え、んな長時間、彼氏を放るか?信じらんねーな、」

 花子に向かって、つづける薔。

 尻尾を振る、花子。





 ナナには、ようやくわかった。



 (このひと、怒ってるんじゃない、拗ねてるんだよ!)




 ……はわぁああ!





 「しかも午後、遊びに行くなん、」

 もはや花子を抱きしめ、つづけている薔だったが、


 ふるふる…


 ナナは、ふるえだした。




 「ちょっともうっ!なぜにそんなにも、かわいすぎるんですかぁ――――――――っ!?」


 あーぁー…(※エコー)





 花子を抱きしめたまんま、無言でようやく薔はナナを見た。

 どこかしら、瞳はうるんでおります。


 「だから言ってんだろ?花子はかわいいんだよ。」
 喜ぶ花子を抱きしめている薔に、

 「花子ちゃんももちろんかわいすぎるんですけど、わたしにとっては薔もめっちゃくちゃかわいいんですよ!!」
 ついにナナは、言っちゃった。




 ………きゃあああ!?





 (勢いあまって、とうとう言っちゃったよ―――――――っ!!)

 真っ赤っかになるナナのまえ、薔は未だ花子を抱きしめている。


 「すみません!あまりにもかわいいので、つい、」
 なんだかばつが悪そうに赤面中のナナへと、
 「ふーん、」
 花子にすこし顔をうずめる体勢で、薔は言いました。


 「ならおまえ、俺にキスしろ。」






 ちょっとだけ、花子が言っているように、思えなくもなかった。

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