※第44話:Love(&Thorn).35






 モンズグを抱えたアダルがたどり着いたのは、なんと、ホストクラブだった。


 ちょっと古めかしい建物だったが、店内はまぁ、キラキラしている。

 店の名前は、


 『ROSE thorn』


 でした。


 …ん?
 ローズ?




 賑やかな店内で、はしゃぐ女の子たちの瞳はあまり正気ではなさそうで。

 むせかえるような薔薇の香り。

 よくよく見渡すと店内には、たくさんの薔薇が飾られていた。



 「今日はローズさま、いないのぉ?」
 ひとりの女の子が、隣のホストに尋ねる。
 「もうすぐ、来るさ。」
 笑ったそのホストは、

 「それより、ちょっといい?」

 目つきが危ない女の子を、奥の部屋へと連れて行った。







 「…リリュークさまは?」
 アダルはモンズグを別のホストに預け、マネージャーに尋ねた。
 「只今、狩りに出掛けておりますので、もうじきお帰りになるかと、」
 マネージャーがこう言った瞬間、

 「もう帰ったよ?」

 後ろから、声がした。


 はっとしてふたりが振り向くと、

 「リリュークさま…!」

 が立っていた。



 「おかえりなさいませ!」
 ふたりはかしこまる。

 「それよりアダル、キミはどうだったんだい?」
 穏やかな雰囲気で、リリュークがこう返してきたので、アダルは、

 ギクッ

 とした。


 「申し訳ございません…やはり、上玉は、手強すぎまして…」
 「やっぱりね、」
 穏やかなまま言ったリリュークは、夏だというのにコートを脱いだ。
 着ていたんだ。


 そのとき、

 「きゃあ!ローズさまぁ!」

 女の子たちがはしゃぎだした。

 「やぁ、」
 おわかりかと思われますが、ローズさまとは、


 リリュークのことでした。




 「かっこいい…、」
 うっとりする女の子たちの目は、やはりどこか異常である。


 そんな女の子たちの危ない眼差しをすり抜け、リリュークは奥へと向かった。
 ちょうどこのとき戻ってきた先ほどのホストは、通り過ぎる際、

 「23人目です…」

 と、リリュークに耳打ちした。

 「もう?」
 嬉しそうに、リリュークは笑う。



 途中、

 「やはり薔薇は、美しいね。」

 傍らに飾られていた薔薇を手にとり、顔に近づけるリリューク。

 しかし、薔薇は、

 「これは、いけない子だ、」

 棘でリリュークのゆびを刺した。


 血は瞬く間に、引いてゆく。

 一瞬の鋭い痛みを、ゆびに残して。








 奥にはさらに、扉があった。

 ギィ――――――…

 その重い扉を開け、カツカツという足音が、真っ暗な螺旋階段を降りてゆく。


 先には、広い地下室があった。



 地下にすら、むせかえるほどの薔薇の香りが立ちこめており。


 「あと、76人、」
 そう呟いたリリュークの目の前には、大きな鉄格子が聳える。




 中には何人もの、少女たちが眠っていた。





 「99人と、ひとり、」
 リリュークは、静かに笑う。



 「儀式のためには、やむを得ない。」

 告げたリリュークは、再び階段を上がっていった。








 上では、ひとりのホストが女の子の首筋に噛みついている。

 「吸いすぎないようにね、大事な生け贄だから。」
 リリュークが忠告すると、ホストは頷くが牙を抜きはしなかった。

 この光景を目の当たりにしても、怯える者は一人もいない。




 リリュークはマネージャーを、顎で呼び寄せる。


 「どうなさいました?」
 近づいたマネージャーに、




 「作戦変更だよ。あの子をおびき寄せるため、彼女を使おう。」



 微笑むリリュークは、言いました。





 「それにしてもこの街、やりづらいね。免疫のこと、考えてなかったよ。」
 明るく言うリリュークだが、

 (あ、やっぱり。)
 マネージャーは、こころでそう納得した。

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