第4話:Game(+Sadness).2



 ナナの目の前で、薔はソファに身を委ねる。

「どうし………て…………?」
 やめておけ。
 聞いちゃいけないよ。
 そこに踏み入れちゃ、いけないんだよ、きっと――――――…

 しかし、薔は明かした。

 自身の、過去を。






「お前でもわかると思うが、俺はかつて神童と呼ばれていた。」
 あー、すごく思いたくないけど、やっぱり生意気だよこのひと(泣)
「家族は俺を、溺愛していたな。」
 雨足が、強まってまいりました。

「10年前のある日、俺がひとりで無茶をし、意識不明の重体で病院に搬送されたとき、」

 ナナは、じっとこころを傾ける。


「全員、私用を放って、ひとつの車で駆けつけようとした。」

 ピカッ

 ついに、雷雨へ切り替わります。

「心配のあまり、急ぎすぎたんだろうな、」

 言わせて、いいの?

「事故で全員、亡くなった。」

 ザァア―――――…

「俺だけが助かり、代わりに全員死んだ。」






「俺は、家族を殺したんだ。」












 ―――――――――…

「あの日から、俺を本当に大切だと思うひとは、ひとりもいなくなったな。」

 ………………やめて、ください。
 なんでそんなに、淡々と語れるの?
 眩暈がするほど、鳥肌が立つほどに、おそろしくかなしいよ……………。

「全員殺したんだからな、当然の報いだ。」
 やめて。
「汚れきってる、俺は。」
 ちがう。
「どれだけの禊ぎでも、洗い流せない。」
 ちがう。
「だから、お前も、」





「この手で汚したんだよ。」











「上玉だとか言っても、んなもん話になんねーな。」

 ポタポタッ

「うっ……うっ………うぅっ……………」
「おい、」




「なんでお前が、泣いてんだ?」




「わたしっ…………うっ……………」
 涙は止まらなかった。
 氾濫する、それは痛みとともに、あふれだした。


「わたし…………いままで、たくさんのひとを、殺してきちゃったよぉ………………」
 嗚咽が漏れ、息苦しいほど止まらない。
「ひとの命が、こんなにも……うっ………重くて、大切で、かけがえのないものなんて、思いもしなかった………………」

 黙って聞いているんだ、珍しい、あのひとが……。



「ごめんなさい……………ごめんなさい……………」
 泣きながら繰り返す。

 きっと永遠に繰り返しても、足りないのに。



「アンタはさぁ………ぜんっぜん、悪くないじゃん………ちっとも汚れてなんかないじゃん……………何言ってんの……………?」

 止まらなかった。
 だから、言ってしまった。









「“生きててくれてほんっっとーにありがとう”だ!このクソバカやろう!!」

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